民法第20条第1条(制限行為能力者の相手方の催告権)の条文

第20条(制限行為能力者の相手方の催告権)

1 制限行為能力者の相手方は、その制限行為能力者が行為能力者(行為能力の制限を受けない者をいう。以下同じ。)となった後、その者に対し、1箇月以上の期間を定めて、その期間内にその取り消すことができる行為を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、その者がその期間内に確答を発しないときは、その行為を追認したものとみなす。

2 制限行為能力者の相手方が、制限行為能力者が行為能力者とならない間に、その法定代理人、保佐人又は補助人に対し、その権限内の行為について前項に規定する催告をした場合において、これらの者が同項の期間内に確答を発しないときも、同項後段と同様とする。

3 特別の方式を要する行為については、前2項の期間内にその方式を具備した旨の通知を発しないときは、その行為を取り消したものとみなす。

4 制限行為能力者の相手方は、被保佐人又は第17条第1項の審判を受けた被補助人に対しては、第1項の期間内にその保佐人又は補助人の追認を得るべき旨の催告をすることができる。この場合において、その被保佐人又は被補助人がその期間内にその追認を得た旨の通知を発しないときは、その行為を取り消したものとみなす。




民法第20条第1項(制限行為能力者の相手方の催告権)の解説

趣旨

本項は、制限行為能力者の相手方の催告権のうち、行為能力者となった後の制限行為能力者自身に対するものについて規定しています。

制限行為能力者の相手方は、その制限行為能力者が行為能力の制限を受けない者(=行為能力者)になった後で、その者に対して、1ヶ月以上の期間を定めて、その期間内に取消しする(第120条第1項参照)ことができる行為を追認する(第122条参照)かどうかを確答するように、催告することができます。

この確答がない場合は、その行為は、追認されたものとみなされます。

制限行為能力者が行為能力者になった場合の催告権

制限行為能力者の相手方を保護するための催告権

制限行為能力者の行為のなかには、取消しができる行為があります。

この制度により、制限行為能力者の相手方は、いつ取り消されるかわからない、という不安定な状態になります。

このような不安定な状態を解消し、いわゆる「取引の安全」を図るため、制限行為能力者の相手方には、本項のような「催告権」が与えられています。

つまり、制限行為能力者が行為能力の制限を解除され、単独で法律行為をおこうなうことできるようになった場合(=行為能力者となった場合)、その相手方は、制限行為能力者だった者が過去におこなった法律行為について、追認するのか取り消すのかをはっきりさせるための催告ができます。

未成年者の場合の具体例

例えば、未成年だった時に結んだ契約は、その未成年者が成年(第4条参照)となった後で、その成年となった者自身が、追認するのか、または取消すのかを決定できます。

未成年者だった時の契約の相手方としては、取り消される(第5条第2項参照)のか追認されるのか不安定な状態を放置しておくと、将来のリスクとなりかねません。

特に、契約の取消しがあったとしても、必ずしも、100%原状回復がされるとは限りません(いわゆる「現存利益」について、第121条参照)。

このため、未成年者だった者の契約の相手方は、本項にもとづいて、契約を取り消すのか追認するのかを催告することにより、契約を確定させることができます。

みなし規定

本項はいわゆる「みなし規定」です。

【意味・定義】みなし規定とは?

みなし規定とは、「みなす」という表現が使われている法律上の規定のことであり、ある事実があった場合に、法律上、当然にそのような効果を認める規定のことをいう。

このため、行為能力者が期間内に確答をしない場合、たとえ行為能力者が取消そうとしていたときであっても、追認したものとして扱われます。




用語の定義

制限行為能力者とは?

【意味・定義】制限行為能力者とは?

制限行為能力者とは、行為能力が制限される「(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第17条第1項の審判を受けた被補助人」(第13条第1項第10号)をいう。




改正情報等

新旧対照表

民法第20条(制限行為能力者の相手方の催告権)新旧対照表
改正法旧法

改正民法第20条第1条(制限行為能力者の相手方の催告権)

1 制限行為能力者の相手方は、その制限行為能力者が行為能力者(行為能力の制限を受けない者をいう。以下同じ。)となった後、その者に対し、1箇月以上の期間を定めて、その期間内にその取り消すことができる行為を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、その者がその期間内に確答を発しないときは、その行為を追認したものとみなす。

2〜4(略)

旧民法第20条第1条(制限行為能力者の相手方の催告権)

1 制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第17条第1項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の相手方は、その制限行為能力者が行為能力者(行為能力の制限を受けない者をいう。以下同じ。)となった後、その者に対し、1箇月以上の期間を定めて、その期間内にその取り消すことができる行為を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、その者がその期間内に確答を発しないときは、その行為を追認したものとみなす。

2〜4(同左)

本条は、平成29年改正民法(2020年4月1日施行)により、以上のように改正されました。

改正情報

平成29年改正民法による民法第13条第1項第10号の追記により、同号において制限行為能力者の定義が規定されました。

これを受けて、本条における制限行為能力者の記載が削除されました。




契約実務における注意点

催告よりも法定代理人等の同意または法定代理人との契約が現実的

契約実務上、滅多に問題となる規定ではありません。

というのも、通常の契約実務では、わざわざ制限行為能力者の制限が解除されるまで待ちません。

そうではなく、法定代理人第5条第1項参照)や、保佐人(第13条第1項参照)、補助人(第17条第1項参照)に、同意を求めるべきです。

または、親権者、未成年後見人や成年後見人と、法定代理人として契約を結ぶべきです。

制限行為能力者の制限解除まで待たない

通常の契約実務では、制限行為能力者の制限解除まで待たずに、法定代理人等から同意を得るか、または法定代理人として契約を締結してもらうのが現実的。

もちろん、必ずしも同意を得ることや、法定代理にとの契約ができるとは限りません。

このため、法定代理人、保佐人、補助からの同意を得る見込みがない、または法定代理人としての契約が難しい場合などには、本項により、行為能力者の追認を得ることも検討するべきです。

催告は配達証明付きの内容証明郵便を使う

なお、催告は、電話・メール・普通郵便などではなく、配達証明付きの内容証明郵便でおこないます。

これは、後から制限行為能力者だった者から、「そんな催告は受けていません」と主張されないよう、配達された事実と配達された内容について、証拠に残しておくためです。

また、催告される側としても、確答する際には、同じように配達証明付きの内容証明郵便を使用した書面によっておこなうべきです。

特に、取消しの確答をする場合は、証拠が残っていないと、追認したものとみなされてしまう可能性があります。

注意すべき契約書

  • 制限行為能力者が当事者となる契約書