民法第21条(制限行為能力者の詐術)の条文

第21条(制限行為能力者の詐術)

制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない。




民法第21条(制限行為能力者の詐術)の解説

趣旨

本条は、制限行為能力者による行為能力の詐術について規定しています。

制限行為能力者が、その行為に制限の無い行為能力者であることを信じさせるために詐術を用いたときは、その行為を取り消す(第120条第1項参照)ことができません。

本来、制限行為能力者は、通常の行為能力者よりも物事の認識ができなかったり不十分であったりするからこそ法律によって保護されるべきものです。

しかしながら、その制限行為能力者が、自ら偽って、その行為に制限の無い(=行為能力者)ものと相手方を信じ込ませた場合は、もはや法律によって保護するに値しません。

このような場合は、その制限行為能力者の取消権を制限することにより、騙された相手方は保護されます。

典型的な例としては、未成年者(第5条第1項参照)が成年(第4条参照)であると偽って契約を結ぶ場合などです。

親によって勝手に契約を取り消されないようにするため、未成年者が嘘をついて成年として契約を結んだ場合は、本条により、取り消しができなくなります。

なお、具体的にどのような行動が「詐術」にあたるのかは、判例によって微妙な違いがあり、一義的な基準はありません。




契約実務における注意点

本条は、契約実務上、極めて重要な条項です。

契約実務において、相手方が制限行為能力者であるかどうかを確認することは、容易ではありません(未成年者は比較的容易です)。

というのも、制限行為能力者(未成年者を除く)であることは、後見登記等に関する法律第4条第1項第5号によって、法務局に登記されます。この点について、制限行為能力者の契約の相手方は、その登記事項の証明書の交付を請求できないことになっています(制限行為能力者本人やその関係者はできます)。

つまり、制限行為能力者の契約の相手方は、制限行為能力者の側に対して、登記事項の証明書の提示を求めることによってしか、制限行為能力者かどうかを判断できないことになります。

そこで、本条を利用することにより、制限行為能力者の取消権を制限することも検討するべきです。

つまり、制限行為能力者ではない旨を宣言した契約書、誓約書、覚書などに調印してもらうことによって、その取消権を制限する、ということです。

ただし、この方法は、よほど慎重にやらないと調印を強要したようにみなされる場合があり、公序良俗違反(第90条参照)となるおそれがあります。

場合によっては、刑事事件に発展する可能性もあります。

さらに、判例の基準から判断しても、単に書類に調印してもらっただけでは、本条が適用されないものと思われますから、そのときの言動も記録しておくようなやり方でやらなくてはなりません。

このようなリスクのある手段で契約を結ぶよりは、制限行為能力者の代理人と契約を結ぶなり、制限行為能力者の行為に対して同意権を有している者の同意を得るなりしたほうが確実です。

注意すべき契約書

  • 制限行為能力者が当事者となる契約書