民法第102条(代理人の行為能力)の条文

第102条(代理人の行為能力)

制限行為能力者が代理人としてした行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができない。ただし、制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為については、この限りでない。




民法第102条(代理人の行為能力)の解説

趣旨

本条は、制限行為能力者による代理行為ついて、行為能力の制限による取消しの是非について規定しています。

制限行為能力者による代理行為は、原則として行為能力の制限による取消しができず、他の制限行為能力者の法定代理人としての代理行為は、例外として、行為能力の制限による取消しができます。

以上のように、代理人は、行為能力者である必要はなく、制限行為能力者であってもなることができますが、代理人としての取消権は、制限行為能力者自身としての取消権よりも制限されています。

代理人には利害がない

代理行為による利益・不利益は本人の問題

そもそも、制限行為能力者の制度は、制限行為能力者を保護するための制度です。

また、代理行為によってその効果が帰属するのは本人であり、代理人ではありません。

そして、代理行為により利益を享受する、または不利益を被る者も本人です。

原則として代理人は保護する必要はない

他方、制限行為能力は、代理行為により、なんら利益を享受することもなければ、不利益を被ることもありません。

当然ながら、代理行為については、特に制限行為能力者を保護する必要もありません。

従って、代理人の要件として、行為能力は必要とされていません。

本条は、むしろ、制限行為能力者が代理人となった場合の相手方を保護するための規定です。

他の制限行為能力者の法定代理人は保護される

ただし、本条のただし書きにあるとおり、「制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人」であった場合は、「他の制限行為能力者」を保護する必要があります。

しかも、「他の制限行為能力者」にとっては、制限行為能力者は「法定代理人」であって、自ら選任した任意代理人ではありません。

このため、本条ただし書きにより、「制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人」による取消権を認めることとしました。

逆に言えば、保佐や補助を受けることにより、制限行為能力者であっても、他の制限行為能力者の法定代理人として、一定の法律行為をおこなうことができます(第13条第1項第10号、第17条第1項ただし書き)。




用語の定義

制限行為能力者とは?

【意味・定義】制限行為能力者とは?

制限行為能力者とは、行為能力が制限される「(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第17条第1項の審判を受けた被補助人」(第13条第1項第10号)をいう。

行為能力とは?

【意味・定義】行為能力とは?

行為能力とは、私法上の法律行為を単独で完全におこなうことができる能力をいう。

取消しとは?

【意味・定義】取消しとは?

取消しとは、いったん有効に効果が生じた法律行為を遡って無効にすることをいう。

法定代理人とは?

【意味・定義】法定代理人とは?

法定代理人とは、法律にもとづき代理権が発生する代理人のことをいう。




改正情報等

新旧対照表

民法第102条(代理人の行為能力)新旧対照表
改正法旧法

改正民法第102条(代理人の行為能力)

制限行為能力者が代理人としてした行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができない。ただし、制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為については、この限りでない。

旧民法第102条(代理人の行為能力)

代理人は、行為能力者であることを要しない。

本条は、平成29年改正民法(2020年4月1日施行)により、以上のように改正されました。

改正情報

旧民法第102条は、代理人の要件として「行為能力者であることを要しない」と記載されていました。

ただ、この規定は、改正民法第102条にあるとおり、制限行為能力者である代理人の取消権を否定するものと解されていました。

この改正は、この解釈を明文化したものです。

そのうえで、制限行為能力者が「他の制限行為能力者」の法定代理人である場合は、その「他の制限行為能力者」を保護するため、例外として取消権を認めるただし書きを新設しました。




契約実務における注意点

制限行為能力者を代理人にするのは避けるべき

本条により、制限行為能力者を代理人とすることができます。

しかし、よほど特殊な事情がない限り、契約交渉において制限行為能力者を代理人とすることは、なるべく避けるべきです。

というのも、制限行為能力者は、行為能力者に比べて、判断力が不十分であるとされています。

このため、不利な内容の契約を結んでします可能性が十分にあります。

仮に不利な内容での契約を結んでしまった場合であっても、本条により、その不利な内容の契約を受け入れなければならなくなります。

必ずしも行為能力者だから代理人にしていいわけではない

もっとも、行為能力者であればなんら問題がないかというと、必ずしもそうであるとはいえません。

あくまで、代理人とする者の選定にあたっては、代理人の資質・能力により判断するべきです。

従って、代理人を選定する場合は、法的な効果がどうこうという以前の問題として、より有利な契約を結ぶために、制限行為能力者ではなく、資質・能力のある行為能力者を代理人として選定するべきです。

注意すべき契約書

  • 代理人との委任契約書