民法第103条(権限の定めのない代理人の権限)の条文
第103条(権限の定めのない代理人の権限)
権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する。
(1)保存行為
(2)代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為
民法第103条(権限の定めのない代理人の権限)の解説
趣旨
本条は、権限の定めのない代理人の権限について規定しています。
代理権の内容が具体的に規定されていない代理人は、次の各号に掲げる行為のみをおこなう権限を有します。
権限の定めのない代理人ができる行為
- 保存行為
- 代理の目的である物または権利の性質を変えない範囲内において、その利用または改良を目的とする行為(それぞれ「利用行為」、「改良行為」といいます。)
本条は、何らかの事情で代理権の内容が定められていない場合に、民法上、最低限おこなうことができる行為として規定されています。
保存行為とは
本条における「保存行為」とは、財産の現状を維持するための法律行為をいいます。
例えば、次のような行為をいいます。
保存行為の具体例
- 建物や自動車などの物の価値を維持するための行為
- 魚や野菜などのような腐りやすいものを現金化する行為
- 債務の弁済
なお、戦争により建物を失うことを見越してその建物を売却する行為は保存行為に当たらないとされています(最高裁判決昭和28年12月28日)。
利用行為とは
本条における「利用」「を目的とする行為」を、「利用行為」といいます。
これは、代理の目的である物または権利で収益をはかる法律行為のことであり、代理人が自分のために勝手に使う行為を意味しているわけではありません。
例えば、建物や土地を貸し付けたり、金銭を預金とする行為が該当します。
改良行為とは
本条における「改良を目的とする行為」を、「改良行為」といいます。
これは、代理の目的である物または権利の価値を増加する法律行為です。
例えば、建物をリフォーム(修繕の場合は保存行為に該当)したり、田畑に肥料を施したりする行為が該当します。
契約実務における注意点
本来であれば、代理権の範囲は、委任契約書に明記されているべきものです。
従って、やむを得ない場合を除いて、本条が適用されるようなことがあってはなりません。
このため、契約交渉のために本人として代理人を選任する場合、いうまでもありませんが、委任契約書において、代理人の権限を明確に規定しておくべきです。
また、逆に代理人を相手に契約交渉をおこなう場合、相手方である代理人にどのような権限があるのかを必ず委任状で確認するべきです。権限の確認ができない場合は、本条に規定する程度の権限しかないものと考えて交渉します。
なお、実際に権限がないにもかかわらず、その権限外の代理行為があった場合は、表見代理となるため、面倒なトラブルとなります。
このため、代理人の権限の確認は非常に重要です。
注意すべき契約書
- 代理人との委任契約書
- 委任状