民法第117条第1項(無権代理人の責任)の条文

第117条(無権代理人の責任)

1 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。

2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。

(1)他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。

(2)他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りでない。

(3)他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。




民法第117条第1項(無権代理人の責任)の解説

趣旨

本項は、無権代理人の責任の原則について規定しています。

原則として、他人の代理人として契約をした者は、相手方の選択にしたがって、相手方に対して、自らその契約を履行するか、または損害の賠償をするかのいずれかの責任を負わなければなりません。

例外として、自分の代理権を証明したとき、または本人の追認(第116条参照)を得ることができたときは、責任を負いません。




補足

表見代理にも適用される

本項による代理人に対する責任の追求は、いわゆる狭義の無権代理(第113条第1項参照)の場合だけではありません。

過去の判例では、表見代理(第109条第110条第112条)の場合にも適用されます(最高裁判決昭和33年6月17日)。

このため、代理行為が表見代理の要件を充たす場合は、相手方は、表見代理を主張して本人への代理行為の効果の帰属と、本項にもとづく無権代理人への責任の追求のいずれかを選択することができます。

自己の代理権を証明することについて

代理人による代理権の証明については、特に過失の有無が規定されていません。

このため、代理人による無過失責任とされています。

よって、過失の有無を問わず、代理人が代理権を証明することができない場合は、本項が適用される可能性があります。

履行の責任とは

本項における(契約の)履行とは、代理人による履行であり、本人による履行ではありません。

つまり、「代理人が本人に契約を履行させる」のではなく、「代理人が自ら契約を履行する」ことです(前者は追認といえます)。




改正情報等

新旧対照表

民法第117条(無権代理人の責任)新旧対照表
改正法旧法

改正民法第117条(無権代理人の責任)

1 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。

2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。

(1)他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。

(2)他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りでない。

(3)他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。

旧民法第117条(無権代理人の責任)

1 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。

2 前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったとき、又は他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは、適用しない。

本条は、平成29年改正民法(2020年4月1日施行)により、以上のように改正されました。

改正情報

旧民法第117条第1項は、代理権の立証や本人の追認の取得について、立証責任が明らかではありませんでした。

このため、改正第117条第1項において、これらの立証責任が代理人の側にあることをより明確にしました。




契約実務における注意点

本項は、代理権を付与される委任契約において、(特に代理人にとって)重要な規定です。他人の代理人となる場合は、本項にもとづいて自分に責任が及ばないよう、代理権の授与が明記された委任契約書を取り交わすべきです。

このため、委任契約書は、代理人にとっては、自分が無権代理人となってしまうリスクを回避する意味で、非常に重要な書類であるといえます。

本人との口約束で委任契約にもとづいて代理行為をおこない、後になってから本人に代理権を与えていないと主張された場合、真実はどうであれ、場合によっては無権代理行為とされてしまう可能性があります。

この場合、本項にもとづいて、過大な責任を負わなくてはならなくなります。

このような不要なリスクを回避するためにも、代理権が明記された、本項でいうところの「証明」の証拠となる委任契約書の取り交わしが重要となります。

注意すべき契約書

  • 委任契約書