民法第120条第2項(取消権者)の条文

第120条(取消権者)

1 行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者(他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為にあっては、当該他の制限行為能力者を含む。)又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。

2 錯誤、詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は、瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り、取り消すことができる。




民法第120条第2項(取消権者)の解説

趣旨

本項は、錯誤、詐欺または強迫による取消しの取消権者について規定しています。

錯誤(第95条第1項参照)、詐欺または強迫(第96条第1項参照)によって取り消すことができる行為は、瑕疵(欠陥)ある意思表示をした者、つまり錯誤、詐欺、強迫による意思表示をした当事者またはその代理人もしくは承継人に限り、取り消すことができます。

瑕疵ある意思表示は取消しができる

詐欺または強迫による意思表示は、不完全ではある(瑕疵ある)ものの、一応は本心にもとづく意思表示です。

この不完全な意思表示は、その意思表示おこなった当事者と、その代理人と、その権利義務を受け継いだものだけが取り消すことができます。

なお、このような不完全な意思表示は、取消しではなく追認することで、完全な意思表示とすることもできます(第122条参照)。




取消権者の補足

本項の取消しと他の取消し

本項にもとづいて取り消すことができる行為は、あくまで、「錯誤、詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為」です。

民法上の他の規定、例えば、後見開始の審判(第10条参照)、失踪宣告(第32条第1項)、無権代理行為の取消し(第115条参照)などには適用されません。

代理人とは

代理人には、法定代理人任意代理の両者を含みます。

本項における代理人とは、具体的には、次の者が該当します。

民法第120条第2項の代理人の具体例
  • 未成年者の親権者または未成年後見人(第5条第1項参照)
  • 成年被後見人の成年後見人(第8条参照)
  • 代理権(第876条の4第1項参照)が付与された保佐人(他の制限行為能力者の保佐人を含む。第12条第13条第1項第10号参照)
  • 代理権(第876条の9第1項参照)が付与された補助人(他の制限行為能力者の保佐人を含む。第16条第17条第1項参照)
  • 取消権を持つものから代理権を付与された任意代理人




用語の定義

意思表示とは?

【意味・定義】意思表示とは?

意思表示とは、「一定の法律効果の発生を欲する旨の意思の表明」(法務省民事局『民法(債権関係)の改正に関する説明資料-主な改正事項-』p.35)をいう。

取消しとは?

【意味・定義】取消しとは?

取消しとは、いったん有効に効果が生じた法律行為を遡って無効にすることをいう。




改正情報等

新旧対照表

民法第120条(取消権者)新旧対照表
改正法旧法

改正民法第120条(取消権者)

1 行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者(他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為にあっては、当該他の制限行為能力者を含む。)又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。

2 錯誤、詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は、瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り、取り消すことができる。

旧民法第120条(取消権者)

1 行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。

2 詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は、瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り、取り消すことができる。

本条は、平成29年改正民法(2020年4月1日施行)により、以上のように改正されました。

改正情報

改正民法第95条第1項において錯誤の効果が無効から取消しとなったことを受けて、本項では、錯誤が追加されました。




契約実務における注意点

詐欺や強迫にもとづく意思表示は取消しができる法律行為です。

初めから確定的に効力が生じない無効な法律行為の場合とは違って、取消しができる意思表示は、取消しがない限り、有効な法律行為として存続します。

このため、詐欺や強迫をされた場合は、すぐに取消すことが重要となります。

特に詐欺の場合は、強迫の場合と違って、善意の第三者が最も保護されてしまいます(第96条第3項参照)ので、直ちに取消すべきです。

注意すべき契約書

  • 詐欺や強迫で結んでしまった契約の契約書