民法第160条(相続財産に関する時効の完成猶予)の条文

民法第160条(相続財産に関する時効の完成猶予)

相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から6ヶ月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。




民法第160条(相続財産に関する時効の完成猶予)の解説

趣旨

本条は、相続財産に関する時効の停止について規定しています。

相続財産(相続の権利義務)に関しては、相続人が確定した時点、管理人が選任された時点または破産手続開始の決定があった時点から6ヶ月を経過するまでの間は、時効の完成が猶予されます。

一般的に、相続財産の処理は時間がかかり、しかも、その相続財産自体の権利義務は、相続が確定するまでは不確定なままです。

このため、本条により、次の時点から起算して6ヶ月間を猶予期間として、その間は時効の完成が猶予されます。

相続財産に関する時効の猶予期間の起算点
  • 相続人が確定した時点(第915条以下参照)
  • 管理人が選任された時点(第952条参照)
  • 破産手続開始の決定があった時点(破産法第223条以下参照)




用語の定義

完成(時効)とは?

【意味・定義】完成猶予(時効)とは?

時効制度における完成猶予とは、特定の事由が存在する間に、時効は進行するものの、時効の完成が一定期間は猶予されることをいう。

完成猶予(時効) とは?

【意味・定義】完成猶予(時効)とは?

時効制度における完成猶予とは、特定の事由が存在する間に、時効は進行するものの、時効の完成が一定期間は猶予されることをいう。

更新(時効)

【意味・定義】更新(時効)とは?

時効制度における更新とは、特定の事由が発生した場合に、時効の期間がリセットされて、新たに時効期間の進行が開始することをいう。

時効の援用とは?

【意味・定義】時効の援用とは?

時効の援用とは、時効の利益を受ける旨の主張することをいう。




改正情報等

新旧対照表

民法第160条(相続財産に関する時効の完成猶予)新旧対照表
改正法旧法

改正民法第160条(相続財産に関する時効の完成猶予)

(略)

旧民法第160条(相続財産に関する時効の停止)

(同左)

本条は、平成29年改正民法(2020年4月1日施行)により、以上のように改正されました。

改正情報

見出しのみの改正

本条は、見出しの「停止」が「完成猶予」となりましたが、本文や内容に変更はありません。

「中断」「停止」から「完成猶予」「更新」へ

旧民法では、時効について、「中断」という用語が使われていました。

この「中断」は、改正後の「完成猶予」と「更新」の両方の意味で使われており、非常に理解しづらいものでした。

このため、平成29年改正民法では、時効制度全般において、「中断」の用語の意味を整理し、内容に応じて、「完成猶予」と「更新」に改めました。

「停止」から「完成猶予」へ

旧民法における時効の「停止」については、あたかも時効の進行そのものが停止するかのような誤解の原因となりかねないものでした。

このため、こちらも併せて「完成猶予」という表現に改められています。




契約実務における注意点

相続による権利義務の移転は、当事者の利害関係が対立しやすいため、本条は非常に重要となります。

特に、相続財産は長期間同じ状態が継続し、親族間の関係であるために時効の完成猶予事由に該当する行為がおこなわれていないことが多く、結果として、時効期間が完了していること多いといえます。

このため、長期間相続財産が同じ状態で継続しているような場合、相続により権利義務を承継しようとする相続人と、時効により権利を取得し、または義務を消滅させようとする相続人との利害が対立する可能性があります。

この点について、相続による相続財産の承継が有利である相続人は、本条による猶予期間に時効を中断させるべきです。

逆に、時効による相続財産(権利)の取得、または(義務の)消滅で利益を得る相続人は、本条による猶予期間が経過してから時効を援用するべきです。

というのも、この猶予期間中に時効の援用を主張した場合、相手方に時効の完成が近いことを知られてしまい、時効を更新させるような措置を取られてしまう可能性があるからです。

注意すべき契約書

  • 遺産分割協議書