民法第162条第2項(所有権の取得時効)の条文

第162条(所有権の取得時効)

1 20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。

2 10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。




民法第162条第2項(所有権の取得時効)の解説

趣旨

本項は、占有者が善意・無過失である場合の所有権の取得時効について規定しています。

10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時点で、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得します。

本項は、第162第1項の例外として、占有者が占有の始めに善意・無過失であった場合について規定しています。

本項により、時効期間は10年とされます(第162第1項の場合は20年)。

「所有の意思」、「平穏に」、「公然」、「占有」については、第162第1項を参照してください。

善意とは

本項における「善意」は、自己の物であると信じること(大審院判決大正8年10月13日、最高裁判決昭和43年12月24日)です。

これに対し、自己の物であると信じていないことを「悪意」といいます。

一般的な善意=道徳的な意味の善悪の善意・悪意とは意味が異なりますので、注意を要します。

なお、本項における善意は、推定されます(第186条第1項)。

推定ですので、反証(悪意であるという証拠)があれば、その推定は覆ります。

過失がなかった

本項における「過失がなかった」とは、善意であること=自己の物であると信じることにつき、過失がない=無過失であることをいいます(最高裁判決昭和43年12月24日)。

すでに述べたとおり、善意については推定されますが、無過失については推定されません(第186条第1項)。

このため、無過失であることについては、取得時効を主張する者が立証責任を負います(最高裁判決昭和45年11月11日)。

善意・無過失とされた例

本項における善意・無過失とされた例は、次のとおりです。

民法第162条第2項で善意・無過失とされた判例
  • 相続財産に属する土地を占有してきた者(最高裁判決昭和35年9月2日)
  • 買収農地の売渡しを受けて耕作している者(最高裁判決昭和42年3月31日)

善意・無過失とされなかった例

本項における善意・無過失とされなかった例は、次のとおりです。

民法第162条第2項で善意・無過失とされなかった判例
  • 相手方の法定代理人の法定代理権の瑕疵を調査しなかった者(大審院判決大正2年7月2日)
  • 準禁治産宣告(現在の保佐開始の審判。第12条参照)があったことを調査しなかった者(大審院判決大正10年12月9日)
  • 不動産の相続や取引において、登記簿等の調査をしなかった者(大審院判決大正5年3月24日、最高裁判決昭和43年3月1日)
  • 土地の払下げを受けるに当たって、その土地の境界の調査をせずに隣地の一部がその土地に含まれると信じた者(最高裁判決昭和50年4月22日)
  • 農地を譲り受けた際に、知事の許可がないのに農地の所有権を取得したと信じた者(最高裁判決昭和50年5月25日)




契約実務における注意点

取得時効は、契約によらずに権利を取得する制度であるため、契約実務上は、さほど重要ではありません。

注意すべき契約書

  • 特に注意すべき契約書はありません。