民法第100条(本人のためにすることを示さない意思表示)の条文

第100条(本人のためにすることを示さない意思表示)

代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、自己のためにしたものとみなす。ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知り、又は知ることができたときは、前条第1項の規定を準用する。




民法第100条(本人のためにすることを示さない意思表示)の解説

趣旨

本条は、本人のためにすることを示さない意思表示の効果について規定しています。

代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、本人ではなく、その代理人のためにおこなったものとみなします。

ただし、意思表示の相手方が、代理人が本人のために意思表示をすることを知り、または知ることができたときは、第99条第1項の規定を準用し、直接本人にその意思表示の効果が帰属します。

顕名主義とは

本人のためにすることを示すことを「顕名」といいます。

民法上、顕名があることが、有効な代理行為の要件のひとつです。

このように、代理の要件として顕名を要することを「顕名主義」といいます。

ここでいう「本人のためにすること」とは、本人に法律行為の効果を帰属させることであり、本人の利益のためにおこなうということではありません。

本条の規定により、顕名のない意思表示は、代理人自らの意思表示とみなされます。

みなし規定

本条はいわゆる「みなし規定」です。

このため、本条が適用される場合は、たとえ代理人が本人のために意思表示をしていた場合であっても、代理人自らの意思表示として扱われます。

後で「本人のために意思表示をした」ということを相手方に示した場合であっても、(たとえそれが事実だったとしても)覆すことはできません。

商法第504条による例外

商行為、つまり事業者同士のビジネスの取引の場合は、本条の例外として、商法504条が適用されます。

このため、商行為の代理行為の場合は、本人のためにすることが示されていなかったとしても、その代理行為の効果は、本人に帰属します。

ただし、意思表示の相手方が、代理人が本人のためにすることを知らなかったときは、その相手方は、代理人に対して履行の請求をすることができます。




契約実務における注意点

契約実務においては、代理人と契約交渉をおこなう場合は、必ずその交渉が本人ためにおこなわれていることを明確にする必要があります。

そうしないと、本条が適用され、本人のためだったはずの契約が、代理人のための契約となってしまう可能性があります。

例えば、本人が大変な資産家で、かつ、契約内容が大規模な資金が動くような契約だった場合において、代理人が財産を持っていなかったきは、本条が適用されてしまうと、契約のリスクが非常に高くなります。

また、代理人の側にしても、本人のためにすることを示さないで契約を結んでしまった場合、代理人は、とても用意できないような金銭を動かす契約を守らなくてはならなくなります。

実務的には、本人のためにすることは、いわゆる「委任状」の引渡しによっておこなわれます。

このため、代理人を相手方に契約交渉を進める場合は、必ず代理人から委任状を引渡してもらうようにします。

なお、商法504条によって、商行為、つまり事業者同士のビジネスの取引の場合は、本人のためということを明記しなくて本人に効果が帰属することにはなっていますが、それでも、契約書には、必ず本人のためということを明記するべきです。

というのも、契約書に代理人の名前しか書いていない場合は、やはり代理人と契約したように判断される可能性があるからです。

注意すべき契約書

  • 代理人を相手方とした本人のために結ぶ契約の契約書
  • 委任状