民法第101条第3項(代理行為の瑕疵)の条文
第101条(代理行為の瑕疵)
1 代理人が相手方に対してした意思表示の効力が意思の不存在、錯誤、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。
2 相手方が代理人に対してした意思表示の効力が意思表示を受けた者がある事情を知っていたこと又は知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。
3 特定の法律行為をすることを委託された代理人がその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても、同様とする。
民法第101条第3項(代理行為の瑕疵)の解説
趣旨
本項は、特定の法律行為を委託された代理行為がおこなわれた場合における、本人の悪意・善意有過失のときの代理人についての善意の主張について規定しています。
特定の法律行為をおこなうことを委託された代理人、つまり本人から代理行為の内容を特定された代理人がその行為をおこなったときは、本人は、自ら知っていた事情(悪意)について、代理人が知らなかった(善意)ことを主張することができません。
また、本人が過失によって知らなかった事情(過失による善意)についても、同様です。
代理行為の内容として、特定の法律行為をおこなうことを委託された場合は、その行為のある事実について善意であるかまたは悪意であるかの判断と、過失の有無についての判断は、本人についておこないます。
悪意・善意とは
本項でいう、ある事情を「知っていた」ことを、法律用語では「悪意」といいます。
同様に、ある事情を「知らなかったこと」を、法律用語では「善意」といいます。
両者とも、一般的な意味での善意・悪意=道徳的な善悪の善意・悪意とは意味が異なりますので、注意を要します。
代理行為の瑕疵の具体例
例えば、土地の売買契約の場合を想定します。
売買の対象となっている土地について、買主(本人)がその土地に土壌汚染があることを知っており、代理人がその土地に土壌汚染があることを知らなかったとします。
この場合において、代理人が土地に土壌汚染がないものと信じて売買契約を結んでしまったときは、本人は、後で土地の土壌汚染について、売主に対して、契約不適合責任(第566条参照)の追求ができません。
なお、本項とは直接関係しませんが、上記のような事例の場合、宅地建物取引業者(宅建業者)が媒介していたときは、その宅建業者の土壌汚染の説明義務の有無が問題となることがあります。
用語の定義
法律行為とは?
【意味・定義】法律行為とは?
法律行為とは、行為者が法律上の一定の効果を生じさせようと意図して意思表示をおこない、意図したとおりに結果が生じる行為をいう。
改正情報等
新旧対照表
民法第101条(代理行為の瑕疵)新旧対照表 | |
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改正法 | 旧法 |
改正民法第101条(代理行為の瑕疵) 1 代理人が相手方に対してした意思表示の効力が意思の不存在、錯誤、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。 2 相手方が代理人に対してした意思表示の効力が意思表示を受けた者がある事情を知っていたこと又は知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。 3 特定の法律行為をすることを委託された代理人がその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても、同様とする。 | 旧民法第101条(代理行為の瑕疵) 1 意思表示の効力が意思の不存在、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。 (新設) 3 特定の法律行為をすることを委託された場合において、代理人が本人の指図に従ってその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても、同様とする。 |
本条は、平成29年改正民法(2020年4月1日施行)により、以上のように改正されました。
改正情報
旧民法第101条第2項では、「本人の指図に従ってその行為をしたとき」とありましたが、この改正により「その行為をしたとき」となり、「本人の指図に従って」が削除されました。
つまり、本人が悪意または善意・有過失である場合は本人に責任があるため、本人の指図の有無に関係なく、本人は代理人の善意について主張できなくなりました。
これは、判例(大審院判決明治41年6月10日)の判旨を明文化したものです。