民法第111条第1項(代理権の消滅事由)の条文

第111条(代理権の消滅事由)

1 代理権は、次に掲げる事由によって消滅する。

(1)本人の死亡

(2)代理人の死亡又は代理人が破産手続開始の決定若しくは後見開始の審判を受けたこと。

2 委任による代理権は、前項各号に掲げる事由のほか、委任の終了によって消滅する。




民法第111条第1項(代理権の消滅事由)の解説

趣旨

本項は、代理権の消滅事由について規定しています。代理権は、以下の各号のいずれかの理由が発生した場合に消滅します。

代理権の消滅事由
  • 本人が死亡した場合
  • 代理人が死亡した場合、または、代理人が破産手続の開始の決定、もしくは後見開始の審判(第7条参照)を受けた場合

第1号(本人の死亡)の例外

商行為の委任による代理権は、本人の死亡によっては消滅しません(商法第506条)。

このため、事業者がおこなう委任契約による代理権には、本項が適用されない可能性があります。

また、本人または代理人が死亡した場合であっても、第654条により、急迫の事情があるときは、なお代理権が存続するものと思われます。

なお、本人と代理人が、本人が死亡によって代理権が消滅しない旨をイ委任契約で合意した場合、本項はその合意を否定するものではない、という判例があります(最高裁判決昭和31年6月1日)。

破産手続き開始と後見審判開始が規定された理由

破産者は、民法上、当然に代理人となることができます。

また、成年被後見人(第8条)も同様です(第102条参照)。

しかしながら、破産者や成年被後見人でない者を代理人にしたにもかかわらず、後で代理人について破産手続きや後見審判の開始がなされたときは、本人にとって不都合な形で代理人の事情が大きく変動したことになります。

このため、代理権を消滅させることが相当であり、本項にはこのように規定されました。

なお、後見開始の審判と異なり、代理人が保佐開始(第9条)や被補開始の審判(第15条第1項)を受けた場合は、特に代理権は消滅しません。




契約実務における注意点

本項にもとづく代理権の消滅は、滅多におこるものではありません。

しかしながら、本項各号の事由は、いずれも緊急事態であるため、代理権が消滅することにより、(特に第2号の場合)本人は保護されます。

なお、代理人を相手に契約交渉をしている場合は、第1号の本人の死亡により代理人の代理権が消滅することに注意してください。

この点につき、すでに述べたように、本人の死亡による代理権の消滅を排除する特約があった場合は、その特約は有効となります。

このため、代理人にはこのような特約があるかどうかを確認し、できれば、その特約が記載されている委任状を提出してもらうべきです。

注意すべき契約書

  • 代理人との委任契約書
  • 委任状