民法第117条第2項(無権代理人の責任)の条文

第117条(無権代理人の責任)

1 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。

2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。

(1)他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。

(2)他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りでない。

(3)他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。




民法第117条第2項(無権代理人の責任)の解説

趣旨

本項は、無権代理人の責任の例外について規定しています。

第117条第1項の規定により、無権代理人は、第三者に対して、相手方に対し責任を負わなければなりません。

しかし、例外として、以下の場合は、相手方は、無権代理人に対し、責任を追求できません。

無権代理人に責任を追求できない場合
  • 無権代理人が代理権を有しないことを相手方が知っていた場合(相手方が悪意の場合)
  • 無権代理人が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき(相手方の善意有過失の場合)。ただし、無権代理人が自己に代理権がないことを知っていたとき(無権代理人が悪意の場合)は、この限りでない。
  • 無権代理人が制限行為能力者であった場合

なお、制限行為能力者は代理人になることができます(第102条参照)が、本項により、無権代理人としての責任を免れることになります。

以上のように、次の3つの場合、相手方は、第117条第1項による無権代理人に対し責任を追求することはできません。

無権代理人に責任を追求できない場合
  • 相手方が悪意の場合
  • 相手方が善意有過失の場合(無権代理人が悪意の場合を除く)
  • 無権代理人が制限行為能力者の場合




用語の定義

悪意とは?

【意味・定義】悪意とは?

善意とは、行為者がある特定の事実を知っていることをいう。

善意とは?

【意味・定義】善意とは?

善意とは、行為者がある特定の事実を知らないことをいう。

制限行為能力者

【意味・定義】制限行為能力者とは?

制限行為能力者とは、行為能力が制限される「(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第17条第1項の審判を受けた被補助人」(第13条第1項第10号)をいう。




改正情報等

新旧対照表

民法第117条(無権代理人の責任)新旧対照表
改正法旧法

改正民法第117条(無権代理人の責任)

1 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。

2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。

(1)他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。

(2)他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りでない。

(3)他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。

旧民法第117条(無権代理人の責任)

1 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。

2 前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったとき、又は他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは、適用しない。

本条は、平成29年改正民法(2020年4月1日施行)により、以上のように改正されました。

改正情報

旧民法第117条第2項では、代理人による善意・悪意については、特に明記されていませんでした。

この点について、相手方が過失により無権代理人の無権代理について知らなかった(善意)としても、無権代理人自身が自己の無権代理について知っていた場合(悪意)は、公平の観点から、なお相手方を保護する必要があります。

このため、この改正では、本項第2号において、上記の内容に改められました。




契約実務における注意点

代理人を相手に契約交渉を進める場合、まず最初に委任状(なるべく本人の印鑑登録証明書も併せて)を提示してもらい、有効な代理権があるかどうかを確認するべきです。

本来であれば、有効な代理権が確認できない代理人とは、交渉を進めるべきでありません。

やむを得ず代理権を確認できないまま契約交渉をおこなった結果、代理人が無権代理でることが発覚した場合、即座に契約交渉を打ち切るべきです。

そうしないと、本項により、第117条第1項にもとづく無権代理人への責任追及ができないことになります。

また、委任状の提示などの代理権の確認を怠った場合は、本項でいう「過失」があるものとみなされます。

これにより、第117条第1項にもとづく無権代理人への責任追及ができないことになります。

注意すべき契約書

  • 委任状