民法第144条(時効の効力)の条文
第144条(時効の効力)
時効の効力は、その起算日にさかのぼる。
民法第144条(時効の効力)の解説
趣旨
本条は、時効の効力の発生について規定しています。
時効の効力は、その起算日にさかのぼって発生します。
本条により、時効の効力は、時効の期間が満了した時点から発生するのではなく、時効の起算日までさかのぼって発生します。
本条は、時効の遡及効を認めた条項です。この制度により、時効の効力によって変動する権利とそれに付随する権利がさかのぼって確定します。
なお、本条における「起算日」とは、取得時効の場合は対象物の占有(準占有)が始まった時期、消滅時効の場合は対象となる権利の権利者が権利を行使できる時期です。
消滅時効の場合の具体例
例えば、貸金債権(いわゆる借金)の消滅時効の場合、債権者が元本の返金を請求できる債権の消滅時効の効力は、その発生時点が、時効期間の満了時からであろうと、起算日からであろうとさほど変わりがありません。
しかし、これに付随する債権である、債権者が金利の支払いを請求できる債権の消滅時効の効力は、その発生時点により大きく変わってきます。
消滅時効の効力の発生時点が時効期間の満了時からということになると、金利の支払いを請求できる権利は、消滅時効の効力は、時効期間の満了時に消滅します。
つまり、債務者としては、時効期間の満了時まで金利の支払い債務自体は、依然として有効ということになります。
ということは、時効期間が満了しても、利息の支払い債務が残ってしまい、債務者は、結局は利息を支払わなければなりません。
これでは、事実状態を保護する時効制度の趣旨に反するため、本条により、時効の遡及効を認めています。
この例の場合は、債権者が債務者に対して元本の返済(または利息の支払い)を請求できる時期から消滅時効の効力が発生します。
なお、取得時効の場合も、同様のことがいえます(賃貸不動産における家賃など)。
契約実務における注意点
契約実務において、時効制度そのものは、あまり問題とはなりません。
時効が問題となる状況では、すでに契約上の信頼関係は存在しないことが多いといえます。
このような状況であれば、どのように契約書を作っていようとも、もはやどうにかなるものではないからです。
また、そもそも、時効の規定のほとんどは任意代理であり、当事者の合意のである契約よりも優先されます。
このため、契約にどのような規定があろうとも、あまり意味があません。
もっとも、契約書は、時効を援用する側・援用しない側双方にとって、本条における「起算日」、取得する対象物の占有(準占有)、消滅する債権債務の内容などの証拠となりますので、長期間保存しておくべきものではあります。
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