民法第156条(承認)の条文
第156条(承認)
時効の中断の効力を生ずべき承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力又は権限があることを要しない。
民法第156条(承認)の解説
趣旨
本条は、承認を受領する行為能力および権限について規定しています。
時効の中断の効力を生ずべき承認をするには、相手方の権利についての処分につき、その者の行為能力または権限を必要としません。
「行為能力又は権限があることを要しない」とは、消滅時効の利益を受ける相手方の権利(=自身にとっては消滅する債務)について、その者の行為能力や権限を必要としない、ということです。
行為能力や権限を必要としない理由は、承認は積極的に何らかの権利や義務を発生させるものではなく、本来の権利義務を確認するだけのものです。
このような行為(=承認)は、行為能力や権限を必要とせず、財産の管理能力さえあればよい、とされています。
承認とは
「承認」とは、時効の対象となっている権利義務が存在すること自体を表示することです。
取得時効の場合、例えばある物を自己のために所有する意思をもって占有する者に対して、その物の権利を有する者が、自身の権利の存在を認めることです。
本条においては、あまり問題となりません。消滅時効の場合は、例えば金銭債権の債権者に対して、債務者がその債務の存在を認めることです。
本条において、主に問題となります。
なお、承認には、時効を中断しようとする意思は必要とされません(大審院判決大正8年4月1日)。
承認の具体例と判例
過去の判例では、次のような行為が承認に該当するとされます。
- 債務の一部の弁済(大審院判決大正8年12月16日、最高裁判決昭和38年8月31日)
- 利息の支払い(元本の承認となる。大審院判決昭和3年3月24日)
- 支払いの猶予の申込み(大審院判決昭和4年5月20日)
制限行為能力者による承認
すでに述べたとおり、承認は、行為能力や権限を必要とせず、財産の管理能力さえあればよいされています。
逆にいえば、たとえ行為能力や権限があった場合であっても、財産の管理能力がなければ、承認はできません。
判例では、保佐人(当時の準禁治産者。第12条参照)単独の承認(大審院判決大正7年10月9日)に中断の効力を認めた一方で、未成年者(大審院判決昭和13年2月4日)単独の中断を取り消しうるとされています。
これは、保佐人については財産の管理能力・権限がある一方で、未成年者には財産の管理能力・権限がない、という理由によるものです。
契約実務における注意点
契約実務においては、本条を利用することによって、時効の中断の誘発を狙うことができます。
これは、法定追認(第125条参照)と似ている制度です。
すでに述べたとおり、本条は主に消滅時効の場合に重要となる規定です。
消滅時効の場合、債務者は自己の債務の消滅を意図しています。このような債務者は、上記の判例にあるような承認に該当する行為をおこなうことは期待できません。
この点から、時効を意識している債務者については、承認による時効の中断は、難しいといえます。
このため、このような債務者に対し、債権者として消滅時効の中断を狙う場合は、他の方法による時効の中断(第147条以下参照。)を検討するべきです。
ただ、そもそも自己の債務の消滅を意図していない(あるいは消滅時効に気づいていない)債務者の場合は、上記の判例にあるような承認に該当する行為(特に支払いの猶予の申込み)をおこなうことが期待されます。
このため、このような債務者が相手の場合は、本条の承認により消滅時効が中断される可能性もあります。
他方、債務者として消滅時効を意図している場合は、本条により時効が中断しないよう、慎重な行動が求められます。
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