民法第159条(夫婦間の権利の時効の完成猶予)の条文

第159条(夫婦間の権利の時効の完成猶予)

夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については、婚姻の解消の時から6ヶ月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。




民法第159条(夫婦間の権利の時効の完成猶予)の解説

趣旨

本条は、夫婦間の権利の時効の停止について規定しています。

夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については、婚姻の解消の時から6ヶ月を経過するまでの間は、時効の完成が猶予されます。

本条により、結婚中は夫婦間の権利の時効は主張できず、婚姻が解消し、しかもその時点から6ヶ月を経過して、初めて時効が完成します。

なお、権利自体は、婚姻前に取得したものであろうと、婚姻中に取得したものであろうと、どちでも構いません。

婚姻の解消

本条における「婚姻の解消」とは、次のいずれかのものをいいます。

【意味・定義】婚姻の解消とは?

婚姻の解消とは、次のいずれの事項をいう。

  • 配偶者の死亡
  • 失踪宣告(第30条第1項以下参照)
  • 離婚(第764条・第770条参照)
  • 婚姻の取消し(第743条以下参照)




用語の定義

完成(時効)とは?

【意味・定義】完成猶予(時効)とは?

時効制度における完成猶予とは、特定の事由が存在する間に、時効は進行するものの、時効の完成が一定期間は猶予されることをいう。

完成猶予(時効) とは?

【意味・定義】完成猶予(時効)とは?

時効制度における完成猶予とは、特定の事由が存在する間に、時効は進行するものの、時効の完成が一定期間は猶予されることをいう。

更新(時効)

【意味・定義】更新(時効)とは?

時効制度における更新とは、特定の事由が発生した場合に、時効の期間がリセットされて、新たに時効期間の進行が開始することをいう。

時効の援用とは?

【意味・定義】時効の援用とは?

時効の援用とは、時効の利益を受ける旨の主張することをいう。




改正情報等

新旧対照表

民法第159条(夫婦間の権利の時効の完成猶予)新旧対照表
改正法旧法

改正民法第159条(夫婦間の権利の時効の完成猶予

(略)

旧民法第159条(夫婦間の権利の時効の停止

(同左)

本条は、平成29年改正民法(2020年4月1日施行)により、以上のように改正されました。

改正情報

見出しのみの改正

本条は、見出しの「停止」が「完成猶予」となりましたが、本文や内容に変更はありません。

「中断」「停止」から「完成猶予」「更新」へ

旧民法では、時効について、「中断」という用語が使われていました。

この「中断」は、改正後の「完成猶予」と「更新」の両方の意味で使われており、非常に理解しづらいものでした。

このため、平成29年改正民法では、時効制度全般において、「中断」の用語の意味を整理し、内容に応じて、「完成猶予」と「更新」に改めました。

「停止」から「完成猶予」へ

旧民法における時効の「停止」については、あたかも時効の進行そのものが停止するかのような誤解の原因となりかねないものでした。

このため、こちらも併せて「完成猶予」という表現に改められています。




契約実務における注意点

本条により、夫婦間の財産・権利の時効については、婚姻の解消の時点から6ヶ月間は時効の完成が猶予されます。

このため、婚姻の解消後に配偶者による時効の援用により財産・権利の移転・消滅がある場合は、この猶予期間中に、時効が更新となるような措置を取るべきです。

逆に、婚姻の解消後に配偶者に対し時効を援用する場合、この猶予期間が経過してから時効を援用するべきです。

というのも、この猶予期間中に時効の援用を主張した場合、相手方に時効の完成が近いことを知られてしまい、時効を更新させるような措置を取られてしまう可能性があるからです。

なお、夫婦や家族の関係については、民法に限らず、法律の規定があまり馴染まないものです。

このため、一般的な契約実務とは異なる法体系や考え方になっていることが多く、注意を要します。

注意すべき契約書

  • 夫婦間の契約書
  • 離婚協議書