民法第167条(人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効)の条文
民法第167条(人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効)
人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第1項第2号の規定の適用については、同号中「10年間」とあるのは、「20年間」とする。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
民法第167条(人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効)の解説
趣旨:人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効は20年
本条は、人の生命・身体に対する侵害による損害賠償請求権について、消滅時効の特則を規定しています。
人の生命・身体に対する侵害による損害賠償請求権は、他の損害賠償請求権や債権に比べて、より強く保護される必要があります。
このため、本条では、特則として、人の生命・身体に対する侵害による損害賠償請求権の消滅時効の期間を20年に伸長しています。
民法第167条(人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効)の補足
一般債権=10年、生命・身体への損害賠償請求権=20年
通所の債権の消滅時効は、最長で10年となっています(民法第166条第1項第2号)。
しかしながら、本項により、人の生命・身体に対する侵害による損害賠償請求権については、例外として、消滅時効の期間は最長で20年となります。
このため、被害者は、行使することができる時から20年間は、損害賠償請求権を行使できます。
精神的苦痛にもとづく生命・身体への損害も対象
なお、本条の損害賠償請求権には、単なる精神的苦痛は対象外とされています。
ただし、精神的苦痛を超えて、PTSD等の精神的機能障害を発症した場合は、生命・身体に対する損害賠償の対象となります。
債務不履行・不法行為いずれも「知った時から5年」
なお、民法第724条の2では、人の生命・身体を害する不法行為による損害賠償請求権については、同様に知った時から5年間としています。
民法第724条(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
(1)被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき。
(2)不法行為の時から20年間行使しないとき。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
民法第724条の2(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第1号の規定の適用については、同号中「3年間」とあるのは、「5年間」とする。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
このため、生命・身体への侵害の原因が債務不履行・不法行為のいずれであっても、「知った時から5年間」か侵害の時から20年間が消滅時効の期間となります。
なお、民法改正により、改正第724条において、除斥期間ではなく時効である旨が明記されました。
改正情報等
新旧対照表
第167条(人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効)新旧対照表 | |
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改正法 | 旧法 |
改正民法第167条(人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効) 人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第1項第2号の規定の適用については、同号中「10年間」とあるのは、「20年間」とする。 | 旧民法第167条(債権等の消滅時効) 1 債権は、10年間行使しないときは、消滅する。 2 債権又は所有権以外の財産権は、20年間行使しないときは、消滅する。 |
本条は、平成29年改正民法(2020年4月1日施行)により、以上のように改正されました。
改正情報
他の債権・損害賠償請求権よりも強く保護するべき生命・身体
本条は、この改正により新設されました。
生命・身体に対する侵害による損害賠償請求権は、他の債権や損害賠償請求権に比べると、より強おく保護するべきです。
しかしながら、旧民法では、そのような規定がなかったため、本条が新設されました。
旧民法第167条は改正民法第166条1項に移行
旧民法第167条第1項は改正民法第166条第1項第2号に、旧民法第167条第2項は改正民法第166条第2項に移行しました。
「中断」「停止」から「完成猶予」「更新」へ
旧民法では、時効について、「中断」という用語が使われていました。
この「中断」は、改正後の「完成猶予」と「更新」の両方の意味で使われており、非常に理解しづらいものでした。
このため、平成29年改正民法では、時効制度全般において、「中断」の用語の意味を整理し、内容に応じて、「完成猶予」と「更新」に改めました。
「停止」から「完成猶予」へ
旧民法における時効の「停止」については、あたかも時効の進行そのものが停止するかのような誤解の原因となりかねないものでした。
このため、こちらも併せて「完成猶予」という表現に改められています。