民法第1条第3項(基本原則)の条文
第1条(基本原則)
民法第1条第3項(基本原則)の解説
趣旨:権利の濫用を禁止した規定
本項は、民法の基本原則のうち、権利の濫用の禁止を規定しています。
権利を行使したり主張したりする場合は、いかに権利があるからといって、みだりに行使したり主張したりしてはなりません。
いかに形の上では権利があるとはいえ、実際にその権利を行使することが不当な目的によるものであり、社会的には妥当性を欠くような場合は、その権利の行使は認められません。
このため、権利があるからといって、どんな理不尽な要求でもできるわけではありません。
権利の濫用の要件・効果
権利の濫用の要件(主観的要件・客観的要件)
権利の濫用の要件は、以下のとおりです。
権利の濫用の要件
- 主観的要件:当事者(権利者)の害意があること。
- 客観的要件:社会の倫理概念や公序良俗に反すること。
大審院判決大正8年3月3日・信玄公旗掛松事件
大審院判決昭和10年10月5日・宇奈月温泉事件
権利の濫用の効果
「許さない」とは?
権利の濫用の効果は、「許さない」こととなります。
これは、具体的には、以下のとおりです。
権利の濫用の効果
- 形式的な侵害に対する排除の否定
- 形成権(解除権)等の発効の否定
- 正当な範囲を超えた権利行使の否定
- 不法行為の形成
- 権利の剥奪
契約実務における注意点
企業間取引でも権利の濫用は問題となる
企業間の契約では、当事者間の力関係の優劣によって契約条件が変わってきます。
ただ、立場が強いからといって、なんでも自由にできるとは限りません。
実際に契約条件(権利)が契約書に書いてあったとしても、この「権利濫用」にあたると判断されるような不当な権利は、裁判所によって否定される可能性があります。
場合によっては、逆に損害賠償を命じられることもありえます。
企業間取引では優越的地位の濫用に注意
似たような概念に「優越的地位の濫用」という概念があります。
これは、独占禁止法に規定されている概念です。
前記のような不当な権利は、この独占禁止法によっても否定される可能性があります。
同様に、下請取引の場合は、下請法によっても否定される可能性もあります。
消費者との取引では消費者契約法や特定商取引法に注意
また、事業者と消費者との間の契約では、「権利濫用の禁止」を具体化した、つまり消費者保護の観点に立った、各種特別法が整備されています。
具体的には、消費者契約法、特定商取引法などが該当します。
そのため、いい加減な契約書を作ってしまうと、契約が無効になるどころか、相手方に損害賠償を求められたり、罰則が適用されたりする可能性があります。
こうなると、企業経営の根幹にかかわる事態となりかねません。
ですから、事前にしっかりと特別法を調査されたうえで契約書を作成してください。
注意すべき契約書
- 契約書全般
- 不動産売買契約書
- 不動産賃貸借契約書
- 金銭消費貸借契約書
- 投資顧問契約書
- 匿名組合契約書
- 労働契約書・雇用契約書
- 建設工事請負契約書
- 通信販売契約書
- ホームページ・ウェブサービス・アプリ等の利用規約
民法第1条第3項(基本原則)に関するよくある質問
- 民法第1条第3項(基本原則)はどのような規定ですか?
- 民法第1条第3項(基本原則)は、民法の基本原則のうち、権利の濫用の禁止について規定した条項です。
- 権利の濫用の要件を教えて下さい。
- 権利の濫用の要件は、以下のとおりです。
- 主観的要件:当事者(権利者)の害意があること。
- 客観的要件:社会の倫理概念や公序良俗に反すること。
- 権利の濫用の効果を教えて下さい。
- 権利の濫用の効果は、以下のとおりです。
- 形式的な侵害に対する排除の否定
- 形成権(解除権)等の発効の否定
- 正当な範囲を超えた権利行使の否定
- 不法行為の形成
- 権利の剥奪