民法第9条(成年被後見人の法律行為)の条文
第9条(成年被後見人の法律行為)
成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。
民法第9条(成年被後見人の法律行為)の解説
趣旨
本条では、成年被後見人の保護のための具体的な規定として、成年被後見人の法律行為の取消しについて規定しています。
成年被後見人(第8条参照)がおこなった法律行為(=契約など)は、後で取り消す(第120条第1項参照)ことができます。
ただし、日用品の購入や、その他の日常生活に関する行為については取り消すことができません。
つまり、成年被後見人の法律行為は、日常生活に関するものを除いてすべて取り消すことができる、ということです。
本条は、物事を認識することができない成年被後見人を保護するための、具体的な条文になります。
契約実務における注意点
契約実務という点では、行為能力が制限されている成年被後見人との契約には、細心の注意を払う必要があります(ただし、日常生活に関するものは除きます)。
というのも、どんなにしっかりとした契約書を作り、適正な手続で契約書に署名押印し、各種法律にもなんら抵触していない契約を結んだとしても、相手が成年被後見人である以上は、この規定によって、後で契約が取り消される可能性があります。
つまり、成年被後見人単独との契約は不完全な契約であり、それだけ成年被後見人との契約はリスクが高い、ということです。
取消しのリスクを回避するには、成年被後見人等の追認(第20条第2項参照)を得る必要があります。
当然、それだけのコストがかかることになります。
また、成年被後見人との取引の場合は、成年後見人の同意があった場合であっても、取消すことができます。
このため、そもそも成年被後見人を直接の相手方とした契約は、完全に取消しのリスクを防ぐことはできません。
さらに、非常に厄介なことに、もし契約が取り消された場合は、成年被後見人は、「現に利益を受けている(これを「現存利益」といいます)限度において、返還の義務を負う」ことになります(第121条参照)。
例えば、ある人が、成年被後見人と金銭消費貸借契約(=いわゆる借金の契約)を結び、その成年被後見人に100万円を貸したとします。
その後、その成年被後見人が、借りた金のうち90万円をギャンブルで使ってしまい、さらにその後で、その金銭消費貸借契約が取り消した場合は、現存利益が10万円と判断されます。
この事例では、成年被後見人は、10万円しか返さなくてもいいということになります。
当然、貸し手は、90万円を丸損することになり、救済されることはありません。
これほどのリスクがあるのですから、成年被後見人を初めから契約の相手としないことも検討しなければなりません。
ただ、そうはいっても、成年被後見人と取引をしなければならない状況となるかもしれません。
このような場合、契約実務上、リスクを抑えて成年被後見人と契約を結ぶためには、成年被後見人の代理人である成年後見人と直接契約することになります。
こうすることによって、少なくとも、成年被後見人を理由として取り消されるリスクは無くなります。
注意すべき契約書
- 成年被後見人が当事者となる契約書
- 介護関連などの高齢者が当事者となる契約書