民法第95条(錯誤)の条文
第95条(錯誤)
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。
民法第95条(錯誤)の解説
趣旨
本条は、意思表示のうち、錯誤とその効果について規定しています。
意思表示と内心の意思が一致しなかった場合、その意思表示は、無効(第119条参照)、つまりはじめから無かったことになります。
ただし、意思表示をおこなった者に重大な過失があったときは、その者は、自らその無効を主張することができません。
つまり、勘違いによる意思表示は、よほどのミス(=重過失)がない限り、無効となります。
錯誤は真意がないため、「意思の欠缺(意思の不存在)」のひとつとされます。
なお、判例によると「重大な過失」があるといことは、容易に認定されない傾向にあります。
要素の錯誤とは
本条の錯誤に該当するかどうかは、「法律行為の要素に錯誤があった」かどうかによります。
要素の錯誤とは、その錯誤が無かった場合は、意思表示そのものをおこなわなかったであろうと思われるような重要な錯誤で、しかも本人だけでなく通常人(=いわゆる一般的な判断力のある人)であっても同じ判断をすると思われるような錯誤のことです(大審院判決大正3年12月15日)。
なお、どういう事情が「要素の錯誤」にあたるかは、個別・具体的な事情によります。
また、「重大な過失」の存在は、錯誤の意思表示をした者の相手方が立証しなければなりません(大審院判決大正7年12月3日)。
民法改正情報
本条は、平成29年改正民法(2020年4月1日施行)により、以下のように改正されます。
現行法
第95条(錯誤)
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。
改正法
民法第95条(錯誤)
1 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
(1)意思表示に対応する意思を欠く錯誤
(2)表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第2号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
(1)相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
(2)相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
4 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
契約実務における注意点
契約書を取り交わせば錯誤は問題になりにくい
契約実務においては、本条は、あまり問題になりません。
というのも、契約交渉の過程で説明を尽くし、しっかりとした契約書を作成し、有効な手続で結んだ契約であれば、錯誤には該当しないからです。
契約交渉においては、双方の意思疎通に遺漏がないように進めていくことが重要となります。
その目的のひとつは、本条により、契約が無効にならないようにするためです。
説明責任・情報提供義務に注意
また、近年では、錯誤とは別に、契約交渉段階における、説明責任・情報提供義務が問題となることがあります。
この説明責任・情報提供義務は、信義誠実の原則(第1条第2項)にもとづくものです。
契約交渉段階において、説明責任・情報提供義務を果たさなかった当事者は、契約が成立しなかったとしても、損害賠償責任を負います。
このような点からも、相手方には、誠意をもって契約内容の説明を尽くすべきです。
なお、平成29年改正民法では、契約交渉段階における説明責任・情報提供義務は、明文化は見送られてました(だからといって、説明責任・情報提供義務がないわけではありません)。
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