民法第95条第3項(錯誤)の条文

第95条(錯誤)

1 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。

(1)意思表示に対応する意思を欠く錯誤

(2)表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤

2 前項第2号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。

3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第1項の規定による意思表示の取消しをすることができない。

(1)相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。

(2)相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。

4 第1項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。




民法第95条第3項(錯誤)の解説

趣旨

本項は、表意者に重過失があった場合の取消し(民法第95条第1項)の原則と例外について規定したものです。

まず、原則としては、錯誤が表意者の重大な過失、いわゆる「重過失」によるものであった場合は、表意者は、民法第95条第1項の取消しはできません。

重過失とは、故意に近い著しい注意の欠如のことです。

【意味・定義】重過失とは?

重過失(重大な過失)とは、相当の注意をすれば容易に有害な結果を予見することができるのに、漫然看過したというような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態をいう(大審院判決大正2年12月20日同旨)。

次に、例外として、次の場合は、表意者は、民法第95条第1項にもとづく取消しができます。

表意者の重過失による錯誤があっても取り消せる場合
  • 相手方が表意者に錯誤があることを知っていたとき(いわゆる悪意の場合)。
  • 相手方が表意者に錯誤があることを重過失によって知らなかったとき。
  • 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。

これらの場合は、相手方にも責任があったり(錯誤について悪意である場合や重過失で錯誤を知らない場合)、相手方も錯誤に陥っていたりするため、相手方は、保護に値しません。

なお、表意者の「重大な過失」の存在は、表意者の相手方が立証しなければなりません(大審院判決大正7年12月3日)。




用語の定義

意思表示とは?

【意味・定義】意思表示とは?

意思表示とは、「一定の法律効果の発生を欲する旨の意思の表明」(法務省民事局『民法(債権関係)の改正に関する説明資料-主な改正事項-』p.35)をいう。

取消しとは?

【意味・定義】取消しとは?

取消しとは、いったん有効に効果が生じた法律行為を遡って無効にすることをいう。

悪意とは?

【意味・定義】悪意とは?

善意とは、行為者がある特定の事実を知っていることをいう。




改正情報等

新旧対照表

民法第95条(錯誤)新旧対照表
改正法旧法

改正民法第95条(錯誤)

1 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。

(1)意思表示に対応する意思を欠く錯誤

(2)表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤

2 前項第2号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。

3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第1項の規定による意思表示の取消しをすることができない。

(1)相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。

(2)相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。

4 第1項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

旧民法第95条(錯誤)

意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。

本条は、平成29年改正民法(2020年4月1日施行)により、以上のように改正されました。

改正情報

改正民法第95条第3項は、旧民法第95条ただし書きの内容を維持しつつ、保護に値しない当事者を保護から除外するように改めました。

表意者の相手方が、錯誤があることを知っていた場合や、重過失、つまりほとんど故意に近いほどの注意の欠如によって錯誤があることを知らない場合は、相手方にも責任があるため、保護に値しません。

また、相手方も表意者と同一の錯誤に陥っている場合は、お互いに誤解をしていた以上は、特に相手方を保護する必要性は低いといえます。

このため、こういった場合については、たとえ表意者の重過失によって錯誤があったとしても、例外的に取消しが認められます。