民法第96条第2項(詐欺又は強迫)の条文
第96条(詐欺又は強迫)
1 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前2項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
民法第96条第2項(詐欺又は強迫)の解説
趣旨
本項は、第三者の詐欺にもとづく意思表示について規定しています。
ある者の意思表示について第三者が詐欺をおこなった場合は、意思表示の相手方がその詐欺があったという事実を知り(悪意)、または知ることができた(有過失)場合に限り、表意者(=詐欺で騙された者)は、その意思表示を取り消すことができます。
この詐欺は、いわゆる「第三者による詐欺」と呼ばれています。
第三者による詐欺の具体例
第三者による詐欺の具体例としては、次のようなものが考えられます。
例えば、XがYの所有物である土地について、Aから値上がりすると騙された場合において、XがYから絵画を買い取った場合です。
このような場合、XがAから騙されて土地が値上がりすると信じていたことをYが知っていたとき(悪意)、または知ることができたとき(有過失)に限って、Xは、Yとの土地の売買契約を取消すことができます。
第三者による強迫は常に取消すことができる
本項に明記されていませんが、第三者による強迫があった場合は、扱いが異なります。
第三者による強迫があった場合は、表意者の相手方が強迫があったという事実を知っていようと知っていまいと、表意者は、常にその意思表示を取り消すことができます(最高裁判決平成10年5月26日)。
これは、詐欺よりも強迫された者をより強く保護しようという考え方にもとづくものです。
この点については、批判もあるようです。
用語の定義
意思表示とは?
【意味・定義】意思表示とは?
意思表示とは、「一定の法律効果の発生を欲する旨の意思の表明」(法務省民事局『民法(債権関係)の改正に関する説明資料-主な改正事項-』p.35)をいう。
悪意とは?
取消しとは?
改正情報等
新旧対照表
民法第96条(詐欺又は強迫)新旧対照表 | |
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改正法 | 旧法 |
改正民法第96条(詐欺又は強迫) 1(略) 2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。 3 前2項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。 | 旧民法第96条(詐欺又は強迫) 1(同左) 2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。 3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。 |
本条は、平成29年改正民法(2020年4月1日施行)により、以上のように改正されました。
改正情報
旧民法第96条では、表意者による取消しができたのは、相手方が詐欺があったことを「知っていたとき」(悪意)に限られていました。
この点につき、相手方が知ることができたにもかかわらず知らなかった場合(有過失)の取り扱いは、判例や学説でも統一した見解は確立していませんでした。
ただ、相手方が詐欺の事実を知ることができたのであれば、保護に値しません。
そこで、この改正によって、知ることができた場合についても、表意者が取消しできるよう追加されました。
契約実務における注意点
第三者詐欺では最も保護されるのは事情を知らない契約の相手方
本項は、第三者の詐欺によって騙されて契約してしまった者よりも、事情を知らない契約の相手方を保護します。
騙された者は、第三者に騙された事実について、契約の相手方が知らず、かつ知ることができなかった場合は、契約を取消すことはできません。
つまり、最も保護されるのは、事情を知らない、または知ることができない契約の相手方ということになります。
このため、第三者に騙されて契約を結ぶようなことはないようにしなければなりません。
もっとも、理論上は、第三者から騙された場合において、何らかの損害が発生したときは、騙した者に対して、第709条等にもとづく損害賠償請求ができます。
第三者強迫では最も保護されるのは強迫された者
他方、第三者の強迫の場合は、強迫によって脅されて契約してしまった者を、その契約の相手方よりも保護します。
脅された者は、第三者に脅された事実について契約の相手方が知っていない場合であっても、契約を取消すことができます。
つまり、最も保護されるのは、強迫によって脅された者ということになります。
このため、たとえ第三者から脅されて契約を結ぶことになったとしても、なお救済の余地はあります。
ただし、実務上は、第三者から脅された事実の立証は困難ですから、なるべくこのような事態に巻き込まれいないようにするべきです。
また、逆に第三者によって脅されている者と契約する場合は、常に取消しされる可能性を考えなくてはいけません。
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