民法第96条第2項(詐欺又は強迫)の条文
第96条(詐欺又は強迫)
1 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前2項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。
民法第96条第2項(詐欺又は強迫)の解説
趣旨
本項は、第三者の詐欺にもとづく意思表示について規定しています。
ある者の意思表示について第三者が詐欺をおこなった場合は、意思表示の相手方がその詐欺があったという事実を知っていたときに限り、その意思表示をおこなった者(=詐欺で騙された者)は、その意思表示を取り消す(第121条参照)ことができます。
この詐欺は、いわゆる「第三者による詐欺」と呼ばれています。
第三者による詐欺の具体例
第三者による詐欺の具体例としては、次のようなものが考えられます。
例えば、AがBの所有物であるレプリカの絵画について、Cから本物の絵画であると騙された場合において、AがBから絵画を買い取った場合です。
このような場合、Aが絵画が本物であるとCに騙されていたことをBが知っていたときに限って、Aは、Bとの絵画の売買契約を取消すことができます。
第三者による強迫は常に取消すことができる
本項に明記されていませんが、第三者による強迫の場合は、相手方が強迫があったという事実を知っていようと、知っていまいと、強迫にもとづいて意思表示をした者は、常にその意思表示を取り消すことができます(最高裁判決平成10年5月26日)。
これは、詐欺よりも強迫された者をより強く保護しようという考え方にもとづくものです。
この点については、批判もあるようです。
民法改正情報
本条は、平成29年改正民法(2020年4月1日施行)により、以下のように改正されます。
現行法
第96条(詐欺又は強迫)
1 (省略)
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前2項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。
改正法
第96条(詐欺又は強迫)
1 (省略)
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前2項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
契約実務における注意点
第三者詐欺では最も保護されるのは事情を知らない契約の相手方
本項は、第三者の詐欺によって騙されて契約してしまった者よりも、事情を知らない契約の相手方を保護します。
騙された者は、第三者に騙された事実について契約の相手方が知らない限り、契約を取消すことはできません。
つまり、最も保護されるのは、事情を知らない契約の相手方ということになります。
このため、第三者に騙されて契約を結ぶようなことはないようにしなければなりません。
もっとも、理論上は、第三者から騙された場合において、何らかの損害が発生したときは、騙した者に対して、第709条等にもとづく損害賠償請求ができます。
第三者強迫では最も保護されるのは強迫された者
他方、第三者の強迫の場合は、強迫によって脅されて契約してしまった者を、その契約の相手方よりも保護します。
脅された者は、第三者に脅された事実について契約の相手方が知っていない場合であっても、契約を取消すことができます。
つまり、最も保護されるのは、強迫によって脅された者ということになります。
このため、たとえ第三者から脅されて契約を結ぶことになったとしても、なお救済の余地はあります。
ただし、実務上は、第三者から脅された事実の立証は困難ですから、なるべくこのような事態に巻き込まれいないようにするべきです。
また、逆に第三者によって脅されている者と契約する場合は、常に取消しされる可能性を考えなくてはいけません。
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