民法第155条(差押え、仮差押え及び仮処分)の条文
第155条(差押え、仮差押え及び仮処分)
差押え、仮差押え及び仮処分は、時効の利益を受ける者に対してしないときは、その者に通知をした後でなければ、時効の中断の効力を生じない。
民法第155条(差押え、仮差押え及び仮処分)の解説
趣旨
本条は、差押え、仮差押えおよび仮処分による時効の中断について規定しています。
差押え、仮差押えおよび仮処分は、時効の利益を受ける者に対しておこなわない場合、その者に通知をおこなった後でなければ、時効の中断の効力を生じません。
差押え、仮差押えおよび仮処分は、必ずしも時効の利益を受ける者に対して直接おこなわれるとは限りません。
このため、時効の利益を受ける者以外の者に対して差押え、仮差押えおよび仮処分をおこなった場合は、時効の利益を受ける者に対して通知した後でなければ、時効の中断の効力は効果を生じません。
通常、時効の中断の効力は、原則として、時効の中断の事由(第147条参照)が生じた当事者(およびその承継人)の間においてのみしか生じません(第148条参照)。
本条は、これらの規定の例外として、時効の中断の事由が生じた当事者以外の者に対する通知により、その者について、差押え、仮差押えおよび仮処分による時効の中断の効力を発生させるものです。
具体例および判例
例えば、金銭債権の消滅時効に関しては、次のとおりです。
本条は、ある金銭債権について、第三者が所有する不動産に抵当権が設定されている場合が該当します。
債権者がこの不動産について抵当権を実行した場合、その第三者については、第154条により、時効の中断の効力が生じます。
しかし、債務者(消滅時効の利益を受ける者に相当します)には、第148条により、時効の中断の効力が生じません。
このため、本条にもとづき、債権者が債務者に対して通知することにより、債務者について、時効の中断の効力が生じます。
なお、この点について、その不動産の競売開始の決定正本が債務者に対して送達された場合は、債務者は、被担保債権の消滅時効の中断の効果を受けるとされます(最高裁判決昭和50年11月21日)。
契約実務における注意点
差押え、仮差押えおよび仮処分により時効を中断させる場合、本条により、必ずしもすべての当事者に対して時効の中断の事由となる行為をおこなう必要はありません。
ただし、差押え、仮差押えおよび仮処分をおこなった後で、当事者に対して通知する必要はあります。
なお、差押え、仮差押えおよび仮処分は、専門知識が必要な手続きですので、弁護士や司法書士などの専門家の判断を仰ぎながら慎重に進めるべきです。
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