民法第5条第2項(未成年者の法律行為)の条文
民法第5条(未成年者の法律行為)
1 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
3 第一項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
民法第5条第2項(未成年者の法律行為)の解説
趣旨:未成年者単独の法律行為の取消権を規定
本項では、未成年者の保護のための具体的な規定として、未成年者単独の法律行為の取消権について規定しています。
法定代理人の同意を得ずにおこなった未成年者単独の法律行為は、後で取り消すことができます(第120条第1項参照)。
本項は、民法上は判断力が備わっていないものと取り扱われている未成年者を保護するための具体的な条文です。
「取り消すことができる」とは?
「取り消すことができる」とは、いわゆる「取消し」のことで、いったん有効に効果が生じた法律行為を遡って無効にすることができる、という意味です(ただし、これはあくまで法律行為の取消しの場合に限ります)。
取消しがあった法律行為は、最初から無効であるものとみなされます(いわゆる「みなし規定」)。
【意味・定義】みなし規定とは?
みなし規定とは、「みなす」という表現が使われている法律上の規定のことであり、ある事実があった場合に、法律上、当然にそのような効果を認める規定のことをいう。
未成年者単独の法律行為の取消権者は?
未成年者単独の法律行為の取消権者は、以下の者となります(民法第120条第1項参照)。
取消権者
- 未成年者本人
- 法定代理人(親権者または未成年後見人)
- 承継人
法定代理人は代理権・同意権・追認権・取消権を有する
なお、未成年者の法定代理人は、代理権・同意権・追認権・取消権の4つの権利を有します。
法定代理人の権利
- 代理権:未成年者の代理人として単独で法律行為ができる権利。
- 同意権:未成年者の法律行為に同意する権利(民法第5条第1項)。
- 追認権:未成年者単独の不完全な法律行為を完全なものとするために後で追認する権利(民法第20条第2項参照)。
- 取消権:未成年者単独の不完全な法律行為を取り消すことができる権利(本項、民法第120条第1項参照)。
【補足】未成年者の概要
未成年者の概要 | |
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定義 | 18歳未満の成年でない者 |
単独でできない行為 | 原則としてすべての行為(例外に該当しないすべての行為) |
単独でできる行為 |
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単独行為の効果 | 取消し得る(民法第5条第2項) |
単独行為の取消権者 |
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主な保護者 |
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保護者の権限 |
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補足 | ― |
用語の定義
未成年者とは?
【意味・定義】未成年者とは?
未成年者とは、18歳未満の成年でない者をいう。
法律行為とは?
【意味・定義】法律行為とは?
法律行為とは、行為者が法律上の一定の効果を生じさせようと意図して意思表示をおこない、意図したとおりに結果が生じる行為をいう。
法定代理人とは?
未成年者の法定代理人は、一般的には親権者(≒父母)が該当します(民法第818条、民法第819条)。
ただし、親権者がいない場合や、親権者に管理権がない場合は、未成年後見人が法定代理人となります(民法第838条)。
契約実務における注意点
未成年者単独との契約はリスクが高い
契約実務という点では、行為能力が制限されている未成年者との契約には、細心の注意を払う必要があります。
というのも、どんなにしっかりとした契約書を作り、適正な手続で契約書に署名押印し、各種法律にもなんら抵触していない契約を結んだとしても、相手が未成年者である以上は、本項の規定によって、後で契約が取り消される可能性があります。
つまり、未成年者単独との契約は不完全な契約であり、それだけ未成年者単独との契約はリスクが高い、ということです。
取消しのリスク回避=同意・追認のコストもかかる
このリスクを回避するには、法定代理人の同意(第5条第1項参照)や追認(第20条第2項参照)を得る必要があります。
当然、それだけのコストがかかることになります。
また、同意や追認を得ることができないリスクもあります。
このように、未成年者との契約を完全におこなうためには、高いリスクの回避と、そのためのコストを負担しなければなりません。
取消しがあった場合は「現存利益」しか返ってこない
さらに、非常に厄介なことに、もし契約が取り消された場合は、未成年者は、「現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う」ことになります(民法第121条の2第3項参照)。
この、「現に利益を受けている限度」のことを、「現存利益」といいます。
現存利益の具体例・設例
ある人が、未成年者と金銭消費貸借契約(=いわゆる借金の契約)を締結し、その未成年者に100万円を貸した場合において、その後に、その未成年者が、借りた金のうち90万円をギャンブルで使ってしまい、さらにその後に、その金銭消費貸借契約が取り消したときは、現存利益が10万円と判断される。
上記の設例では、未成年者は、10万円しか返さなくてもいいということになります。当然、貸し手は、90万円を丸損することになり、救済されることはありません。
これほどのリスクがあるのですから、未成年者を初めから契約の相手としないことも検討しなければなりません。
また、未成年者の親(他の法定代理人も含む)は、その未成年者が単独で結んだ契約は、本項をもとにして取り消すができます。それだけ未成年者は強力に保護されているということです。
注意すべき契約書
- 未成年者が当事者となる契約書全般
- 未成年者を対象としたホームページ・ウェブサービス・アプリ等の利用規約
民法第5条第2項(未成年者の法律行為)に関するよくある質問
- 民法第5条第2項(未成年者の法律行為)はどのような規定ですか?
- 民法第5条第2項(未成年者の法律行為)は、未成年者単独の法律行為の取消権について規定した条項です。
- 「取り消すことができる」とはどういう意味ですか?
- 「取り消すことができる」とは、いわゆる「取消し」のことで、いったん有効に効果が生じた法律行為を遡って無効にすることができる、という意味です。