民法第5条第1項(未成年者の法律行為)の条文
第5条(未成年者の法律行為)
1 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
3 第1項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。
民法第5条第1項(未成年者の法律行為)の解説
趣旨:未成年者の権利能力の制限と法定代理人の同意権について規定
本項は、未成年者の権利能力の制限について規定した条項です。
未成年者が完全な法律行為をおこなうには、法定代理人(親権者または未成年後見人。一般的には親)の同意を得なければなりません。
ただし、単に権利を得たり、または義務を免れたりするるだけの法律行為(つまり一方的に未成年者が得する行為)については、法定代理人の同意を得ることなく、未成年者が単独でもできます。
未成年者は単独で完全な法律行為ができない
未成年者の法律行為には法定代理人の同意が必要
民法では、未成年者は、判断力が備わっていないとされています。
このため、不利な内容の契約を結んでしまわないように、強力に保護されています。本項はその代表的な規定です。
未成年者は、原則として単独で法律行為ができず、法定代理人(親権者または未成年後見人。一般的には父母)の同意があって、初めて完全に有効な法律行為をおこなうことができます。
法定代理人の同意の無い未成年者による単独の法律行為は、後で取り消すことができます(第5条第2項参照)。
同意は父母片方?父母両方?
ここでいう「同意」は、父母の婚姻中は、原則として父母両方の同意が必要となります(民法第818条第3項参照)。
民法第818条(親権者)
1 成年に達しない子は、父母の親権に服する。
2 子が養子であるときは、養親の親権に服する。
3 親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
未成年者が一方的に得する行為は単独でできる
ただ、すべての行為が制限されてしまっては、未成年者は、法定代理人の同意がなければ、何もできなくなってしまいます。
このため、ただし書きに規定する「単に権利を得、又は義務を免れる法律行為」については、法定代理人の同意を要する法律行為から除外されています。
つまり未成年者が一方的に一方的に得する行為については、未成年者単独でもできます。
なお、誤解されがちですが、いわゆる「お小遣い」などを使う場合には、本項は適用されません(第5条第3項参照)。
法定代理人は代理権・同意権・追認権・取消権を有する
なお、未成年者の法定代理人は、代理権・同意権・追認権・取消権の4つの権利を有します。
法定代理人の権利
- 代理権:未成年者の代理人として単独で法律行為ができる権利。
- 同意権:未成年者の法律行為に同意する権利(本項)。
- 追認権:未成年者単独の不完全な法律行為を完全なものとするために後で追認する権利(民法第20条第2項参照)。
- 取消権:未成年者単独の不完全な法律行為を取り消すことができる権利(民法第5条第2項、民法第120条第1項参照)。
【補足】未成年者の概要
未成年者の概要 | |
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定義 | 18歳未満の成年でない者 |
単独でできない行為 | 原則としてすべての行為(例外に該当しないすべての行為) |
単独でできる行為 |
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単独行為の効果 | 取消し得る(民法第5条第2項) |
単独行為の取消権者 |
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主な保護者 |
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保護者の権限 |
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補足 | ― |
「単に権利を得、又は義務を免れる法律行為」とは?
本項における「単に権利を得、又は義務を免れる法律行為」とは、未成年者が一方的に利益を得る、または不利益を免れる法律行為のことです。
本項ただし書きにより、これらの法律行為は、例外的に未成年者単独でおこなったとしても有効となります。
例えば、まったく負担の無い、金銭の贈与を受けることや、債務を免除してもらうことなどです。
「単に権利を得、又は義務を免れる法律行為」の具体例
- 負担のない金銭の贈与を受けること(例:お年玉やお小遣いをもらう行為)。
- 債務を免除してもらうこと(例:買い物の代金の支払いを免れる行為)。
また、法定代理人が処分を許した財産(いわゆるお小遣い。)も、未成年者が自由に処分できることになってます(第5条第3項参照)。
用語の定義
未成年者とは?
【意味・定義】未成年者とは?
未成年者とは、18歳未満の成年でない者をいう。
法律行為とは?
【意味・定義】法律行為とは?
法律行為とは、行為者が法律上の一定の効果を生じさせようと意図して意思表示をおこない、意図したとおりに結果が生じる行為をいう。
法定代理人とは?
未成年者の法定代理人は、一般的には親権者(≒父母)が該当します(民法第818条、民法第819条)。
ただし、親権者がいない場合や、親権者に管理権がない場合は、未成年後見人が法定代理人となります(民法第838条)。
取消しとは?
契約実務における注意点
未成年者との契約はリスクが高い
取消し・手続き・不当利得等のリスクがある
契約実務の点では、原則として常にその行為を取り消しうる未成年者との契約は、極めてハイリスクな契約であるといえます(第5条第2項参照)。
それでもなお、リスクを抑えて未成年者と契約を結ぶのであれば、法定代理人に対して書面での同意を求めたり、または催告などで追認を求めたり(第20条第2項参照)しなければなりません。
それだけ煩雑な手続を踏まなくてはなりませんので、当然コストはかかります。
また、法定代理人から同意や追認を得ることができない、というリスクもあります。
さらに、最も重要な点として、取り消された後の不当利得(民法第703条)の返還請求が困難であるという点が、非常に厄介です(第121条参照)。
未成年者を対象としたビジネスはなるべく避ける
ですから、契約実務という点や、ビジネス上のリスク管理という点では、そもそも未成年者を対象としたビジネスは避けるべきです。
なお、このような無用のリスクを回避するために、未成年者と思われる相手方と契約を結ぶ場合は、必ず身分証明書などで年齢を確認しましょう。
未成年者の側は強力に保護される
また、未成年者や、その法定代理人は、本項によって未成年者が強力に保護されているということを覚えておいてください。
もし、未成年者が一方的に不利な契約を結んでしまったとしても、取り消し(第5条第2項参照)や、追認拒絶(第20条第1項・第20条第2項参照)によって、未成年者を保護することができます。
注意すべき契約書
- 未成年者が当事者となる契約書全般
- 未成年者の法定代理人の同意書
- 未成年者を対象としたホームページ・ウェブサービス・アプリ等の利用規約
民法第5条第1項(未成年者の法律行為)に関するよくある質問
- 民法第5条第1項(未成年者の法律行為)はどのような規定ですか?
- 民法第5条第1項(未成年者の法律行為)は、未成年者の権利能力の制限について規定した条項です。
- 「単に権利を得、又は義務を免れる法律行為」とは何ですか?また、具体例について教えてください。
- 「単に権利を得、又は義務を免れる法律行為」とは、未成年者が一方的に利益を得る、または不利益を免れる法律行為のことです。具体的には、次のような行為です。
- 負担のない金銭の贈与を受けること(例:お年玉やお小遣いをもらう行為)。
- 債務を免除してもらうこと(例:買い物の代金の支払いを免れる行為)。