民法第120条第1項(取消権者)の条文

第120条(取消権者)

1 行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者(他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為にあっては、当該他の制限行為能力者を含む。)又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。

2 錯誤、詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は、瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り、取り消すことができる。




民法第120条第1項(取消権者)の解説

趣旨

本項は、行為能力の制限による取消しの取消権者について規定しています。

行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者第20条第1項参照)自身またはその代理人、承継人もしくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができます。

なお、この制限行為能力者には、「他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為にあっては、当該他の制限行為能力者」も含まれます。

制限行為能力者は、民法上の規定により、法律行為の取消しができるように保護されています。

本項は、その取消しの権利を行使できる取消権者として、その制限行為能力者自身と、その制限行為能力者を保護する立場にある者に、法律行為の取消しを認めています。




取消権者に関する補足

本項の取消しと他の取消し

本項にもとづいて取り消すことができる行為は、あくまで、「行為能力の制限によって取り消すことができる行為」です。

この他には、後見人の権限外の行為の取消し(第865条参照)の場合に限ります。

民法上の他の規定、例えば、後見開始の審判(第10条参照)、失踪宣告(第32条第1項)、無権代理行為の取消し(第115条参照)などには適用されません。

制限行為能力者による取消し

制限行為能力者による取消しは、単独で完全な意思表示としておこなうことができます(第122条参照)。

つまり、ある法律行為を単独で取消した後で、更にその取消しを取消すことはできません。

代理人とは

代理人には、法定代理人任意代理の両者を含みます。

本項における代理人とは、具体的には、次の者が該当します。

民法第120条第1項の代理人の具体例
  • 未成年者の親権者または未成年後見人(第5条第1項参照)
  • 成年被後見人の成年後見人(第8条参照)
  • 代理権(第876条の4第1項参照)が付与された保佐人(他の制限行為能力者の保佐人を含む。第12条第13条第1項第10号参照)
  • 代理権(第876条の9第1項参照)が付与された補助人(他の制限行為能力者の保佐人を含む。第16条第17条第1項参照)
  • 取消権を持つものから代理権を付与された任意代理人

同意をすることができる者

本項における同意をすることができる者とは、具体的には、次の者が該当します。

民法第120条第1項の同意権者
  • 未成年者の親権者または未成年後見人(ただしすでに述べた法定代理人と重複)
  • 保佐人(ただし同意権がある行為に限る)
  • 補助人(ただし同意権がある行為に限る)




用語の定義

行為能力とは?

【意味・定義】行為能力とは?

行為能力とは、私法上の法律行為を単独で完全におこなうことができる能力をいう。

制限行為能力者とは?

【意味・定義】制限行為能力者とは?

制限行為能力者とは、行為能力が制限される「(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第17条第1項の審判を受けた被補助人」(第13条第1項第10号)をいう。

法定代理人とは?

【意味・定義】法定代理人とは?

法定代理人とは、法律にもとづき代理権が発生する代理人のことをいう。

取消しとは?

【意味・定義】取消しとは?

取消しとは、いったん有効に効果が生じた法律行為を遡って無効にすることをいう。




改正情報等

新旧対照表

民法第120条(取消権者)新旧対照表
改正法旧法

改正民法第120条(取消権者)

1 行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者(他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為にあっては、当該他の制限行為能力者を含む。)又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。

2 錯誤、詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は、瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り、取り消すことができる。

旧民法第120条(取消権者)

1 行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。

2 詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は、瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り、取り消すことができる。

本条は、平成29年改正民法(2020年4月1日施行)により、以上のように改正されました。

改正情報

この改正では、「(他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為にあっては、当該他の制限行為能力者を含む。)」のかっこ書きが追加されました。

これは、改正民法102条において、法定代理人である制限行為能力者による取消権が明文化されたことや、改正民法第13条第1項において、保佐人の同意を受けた被保佐人が他の制限行為能力者の法定代理人としての行為ができるよう明文化されたことを受けて追加されたものです。




契約実務における注意点

本項は、制限行為能力者が保護されている根拠となる、非常に重要な条文です。

本項を含む制限行為能力者を保護する規定が存在するため、契約実務上は、制限行為能力者との契約は、非常に慎重にならなければなりません。

制限行為能力者との契約の対策としては、本項に定めている取消権を行使できないようにすることになります。

具体的には、次のようなものが考えられます。

制限行為能力者との契約の際の対策
  • 契約を結んだ後で催告(第20条第2項参照)をすることによって、追認(第122条参照)を求める。
  • 契約を結んだ後で制限行為能力者の行為に同意できる立場にある者の同意を得る。
  • 最初から制限行為能力者の法定代理人と直接契約を結ぶ。
  • 未成年者との契約の場合は、「目的を定めないで処分を許した財産」(お小遣いなど)を対象とした契約に限る。

また、慎重な手続きを要する方法ではありますが、事前に制限行為能力者に対し、制限行為能力者かどうかを確認し、制限行為能力者でないことを宣誓してもらうことにより、第21条によって取消しができない状態にする方法もあります。

注意すべき契約書

  • 制限行為能力者が結んだ契約の契約書