民法第13条第1条(保佐人の同意を要する行為等)の条文
第13条(保佐人の同意を要する行為等)
1 被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第9条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
(1)元本を領収し、又は利用すること。
(2)借財又は保証をすること。
(3)不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
(4)訴訟行為をすること。
(5)贈与、和解又は仲裁合意(仲裁法(平成15年法律第138号)第2条第1項に規定する仲裁合意をいう。)をすること。
(6)相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
(7)贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
(8)新築、改築、増築又は大修繕をすること。
(9)第602条に定める期間を超える賃貸借をすること。
(10)前各号に掲げる行為を制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第17条第1項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の法定代理人としてすること。
2 家庭裁判所は、第11条本文に規定する者又は保佐人若しくは保佐監督人の請求により、被保佐人が前項各号に掲げる行為以外の行為をする場合であってもその保佐人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし、第9条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
3 保佐人の同意を得なければならない行為について、保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所は、被保佐人の請求により、保佐人の同意に代わる許可を与えることができる。
4 保佐人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
民法第13条第1項(保佐人の同意を要する行為等)の解説
趣旨
本項は、被保佐人の行為のうち、保佐人の同意を要するものについて規定しています。具体的な行為は、次の通りです。
保佐人の同意を要する被保佐人の行為
- 元本を領収し、または利用すること。(例:借金を返済してもらうこと)
- 借財又は保証をすること。(例:他人から借金をしたり、連帯保証の契約を結んだりすること)
- 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。(例:自宅を売却すること)
- 訴訟行為をすること。(例:裁判を起こすこと)
- 贈与、和解または仲裁合意(仲裁法第2条第1項に規定する仲裁合意をいう。)をすること。(例:贈与契約や和解契約を結ぶこと)
- 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。(例:遺産分割協議書に調印すること)
- 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、または負担付遺贈を承認すること。(例:遺言によって財産を分けてもらえる権利を放棄すること)
- 新築、改築、増築又は大修繕をすること。(例:自宅のリフォームをすること)
- 第602条に定める期間を超える賃貸借をすること。(例:5年間のアパートを借りる契約を結ぶこと)
- 上記の行為について、制限行為能力者の法定代理人としてすること。
これらの行為は、被保佐人(または被保佐人が法定代理人となっている本人)にとって、重要な権利義務の発生や変動を伴うものです。
これらの行為を判断能力が著しく不十分な被保佐人が単独でおこなってしまうと、被保佐人にとって、極めて不利な結果になる可能性もあります。
よって、被保佐人がこれらの重大な行為をおこなう際には、保佐人の同意を要します。
これは、被保佐人の保護を目的としています。
なお、これらの行為について保佐人の同意がない場合は、取消すことができます(詳細は第13条第4項参照)。
日常生活に関する行為は対象外
本項ただし書きにより、「日用品の購入その他日常生活に関する行為」(第9条ただし書き)は、保佐人の同意を要する行為の審判の対象外となります。
「日用品の購入その他日常生活に関する行為」は、被保佐人よりも判断能力が不十分とされる成年被後見人ですら、単独でおこなうことができます。
このため、被保佐人も、単独でこれらの行為をおこなうことができます。
用語の定義
被保佐人とは?
【意味・定義】被保佐人とは?
被保佐人とは、物事を認識する能力が著しく不十分な者のうち、家庭裁判所からの保佐開始の審判を受けたものをいう。
保佐人とは?
【意味・定義】保佐人とは?
保佐人とは、被保佐人を保護するために民法上の権限を与えられた者をいう。
制限行為能力者とは?
【意味・定義】制限行為能力者とは?
制限行為能力者とは、行為能力が制限される「(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第17条第1項の審判を受けた被補助人」(第13条第1項第10号)をいう。
改正情報等
新旧対照表
民法第13条第1条(保佐人の同意を要する行為等)新旧対照表 | |
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改正法 | 旧法 |
改正民法第13条第1条(保佐人の同意を要する行為等) 1 被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。 (1)〜(9)(略) (10)前各号に掲げる行為を制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第17条第1項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の法定代理人としてすること。 2〜4(略) | 旧民法第13条第1条(保佐人の同意を要する行為等) 1 被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。 (1)〜(9)(同左) (10)(新設) 2〜4(同左) |
本条は、平成29年改正民法(2020年4月1日施行)により、以上のように改正されました。
改正情報
平成29年改正民法により第10号を追加
平成29年改正民法により、第13条第1項の第10号が追加されました。
これは、被保佐人であっても、保佐人からの保護や支援を受けながら、法定代理人として制限行為能力者の保護をできるよう改正したものです。
契約実務における注意点
被保佐人との契約では取消のリスクがある
契約実務の点では、被保佐人単独との契約は、注意が必要です。
というのも、被保佐人は、行為能力が制限されているため、単独での契約の場合は、第13条第4項による契約の取消しのリスクがあるからです。
どんなにしっかりとした契約書を作り、適正な手続で契約書に署名押印がされ、各種法律にもなんら抵触していない契約を結んだとしても、相手が被保佐人単独である場合は、本項と第13条第4項により、後で契約が取り消される可能性があります。
つまり、被保佐人単独との契約は不完全な契約であり、それだけ被保佐人単独との契約はリスクが高い、ということです。
このため、被保佐人との契約の場合は、保佐人の同意を得る手続きを常に考慮しなければなりません。
日常生活に関する行為と各号のものは別
ただし、日常生活に関する行為は、保佐人の同意が不要ですので、取消のリスクはありません(本項および第13条第2項ただし書きによる)。
もっとも、取消しのリスクがある契約は、本項各号の行為と第13条第2項にもとづく家庭裁判所の審判があった行為のみです。
このため、取消しのリスクがある行為は、限定されています。
また、取消しのリスクを回避するには、すでに触れた保佐人の同意(本項)、または追認(第20条第2項参照)を得る必要があります。
これらの点から、被保佐人との契約は、被後見人との契約と比べて、取消しのリスクを回避しやすいといえます。
契約の取消しがあっても全額返ってこない可能性もある
なお、非常に厄介なことに、もし契約が取り消された場合であっても、必ずしも契約前の状態に完全に戻る(=原状回復)とは限りません。
というのも、被保佐人は、「現に利益を受けている(これを「現存利益」といいます)限度において、返還の義務を負う」ことになります(第121条参照)。
設例
ある人が、被保佐人と金銭消費貸借契約(=いわゆる借金の契約)を結び、その被保佐人に100万円を貸した。その後、その被保佐人が、借りた金のうち90万円をギャンブルで使ってしまい、さらにその後で、金銭消費貸借契約が取り消した場合、被保佐人が返さなければいけないお金(=現存利益)は100万円?10万円?
上記の設例では、現存利益は、10万円と判断されます。
つまり、この設例では、被保佐人は、10万円しか返さなくてもいいということになります。
当然、貸し手は、90万円を丸損することになり、救済されることはありません。
このため、被保佐人との契約は、単に契約が取り消されるリスクがあるたけではなく、取り消されることによる損害が発生する可能性もあります。
注意すべき契約書
- 金銭消費貸借契約書
- (連帯)保証契約書
- 不動産売買契約書(建物売買契約書・土地売買契約書)
- 贈与契約書
- 遺産分割協議書
- 建設工事請負契約書
- リフォーム工事請負契約書
- 不動産賃貸借契約書(建物賃貸借契約書・土地賃貸借契約書)