民法第32条第1項(失踪の宣告の取消し)の条文

第32条(失踪の宣告の取消し)

1 失踪者が生存すること又は前条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければならない。この場合において、その取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。

2 失踪の宣告によって財産を得た者は、その取消しによって権利を失う。ただし、現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還する義務を負う。




民法第32条第1項(失踪の宣告の取消し)の解説

趣旨

本項は、失踪宣告の取消しとその効力について規定しています。

失踪者が生きていること、または第31条に規定する時とは異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人または利害関係人の請求によって、失踪の宣告を取り消さなければなりません。

この場合、失踪の宣告があってからその取消し前までの間に、その取り消しとなった原因(生きていることや、死亡の時期が第31条の時期とは異なること)を知らず(=善意)におこなった行為には、なんら影響を与えません。

死亡したものとみなされていた失踪者が生きて出てきた場合、当然その失踪宣告は取り消され、元通り生きているものとして扱われます。

利害関係人とは

本項における利害関係人とは、不在者の配偶者、親、子などの親族、受遺者などの不在者の死亡により利害が発生する者、保険金の受取人など、法律上の利害関係を有する者をいいます。

善意とは

本項における「善意」は、失踪宣告の内容と事実が異なることを知らないことをです。

つまり、本当は失踪者が生きていることや、失踪者が死亡した時期が失踪宣告の時期と異なることを知らないことをいいますです。

他方、失踪宣告の内容と事実が異なることを知っていることを「悪意」といいます。

一般的な善意=道徳的な意味の善悪の善意・悪意とは意味が異なりますので、注意を要します。

本項における「善意でした行為」について、契約においては、契約当事者双方共に事情を知らないことが要求されます(大審院民事部判決昭和13年2月7日)。

つまり、契約当事者のどちらかが失踪者について失踪宣告と異なる事情を知っている(=悪意)場合は、本項にもとづいて、その契約が失効する可能性があります。




契約実務における注意点

契約実務において、本項のような契約の効力そのものに直接影響を与える可能性がある規定は、非常に重要な規定であるとえいます。

例えば、失踪者(=Xとします)が失踪宣告により死亡したものとみなされたため、遺産を分割し、その相続分として不動産を相続した相続人(=Aとします)が、その不動産を売買する契約を結んだ場合、その相手方(=Bとします)は、自身が善意であったとしても、Aが善意であるかどうかはわかりません。

このような場合、Bとしては、Aが善意であるかどうかを確認し、不動産売買契約書にその旨を記載してもらいます。

すでに述べたとおり、判例によると、このような契約が本項により失踪宣告の取消しの影響を受けないためには、契約の当事者双方が善意である必要があります。

上記の例のように、契約書にAが善意であることが記載されていた場合は、実際はAが悪意であったとしても、契約違反としてAに対し損害賠償の請求などができます。

このように、もともと失踪者の財産であったものに関する契約書は、相手方の意思(善意)を確認するような条項を規定する必要があります。

注意すべき契約書

  • 失踪者が関係する契約書
  • 遺産の処分に関係する契約書