民法第152条第2項(承認による時効の更新)の条文
民法第152条(承認による時効の更新)
1 時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。
2 前項の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
民法第152条第2項(承認による時効の更新)の解説
趣旨:承認について行為能力・権限の不必要性について規定
本項は、時効に関する権利の承認についての行為能力・権限の不必要性について規定しています。
時効に関する権利の承認をすることについては、行為能力・権限は必要とされません。
このため、制限行為能力者や、権限がない者であっても、承認をすることができます。
行為能力や権限を必要としない理由は、承認は積極的に何らかの権利や義務を発生させるものではなく、本来の権利義務を確認するだけのものです。
このため、財産の管理能力さえあればよい、とされています。
承認とは
承認=時効対象の権利の存在を認めること
「承認」とは、時効の利益を受ける者がその時効の対象となっている権利の存在を認めることです。
【意味・定義】承認(時効)とは?
承認とは、時効の利益を受ける者がその時効の対象となっている権利の存在を認めることをいう。
取得時効の場合、例えば他人の物を自己のために所有する意思をもって占有する者が、所有者に対して、本来はその所有者に所有権=権利があることを認めることです。
消滅時効の場合は、例えば金銭債権の債権者に対して、債務者がその金銭債権=権利の存在を認めることです。
なお、承認には、時効を中断(当時)しようとする意思は必要とされません(大審院判決大正8年4月1日)。
承認の具体例と判例
過去の判例では、次のような行為が承認に該当するとされます。
民法第156条の「承認」の具体例
- 債務の一部の弁済(大審院判決大正8年12月16日、最高裁判決昭和38年8月31日)
- 利息の支払い(元本の承認となる。大審院判決昭和3年3月24日)
- 支払いの猶予の申込み(大審院判決昭和4年5月20日)
補足
制限行為能力者による承認は財産の管理能力・権限による
すでに述べたとおり、承認は、行為能力や権限を必要とせず、財産の管理能力さえあればよいされています。
逆にいえば、たとえ行為能力や権限があった場合であっても、財産の管理能力がなければ、承認はできません。
過去の判例では、保佐人(当時の準禁治産者。第12条参照)単独の承認に中断(当時)の効力を認めたものがあります(大審院判決大正7年10月9日)。
他方、未成年者単独の中断(当時)を取り消しうるとしています(大審院判決昭和13年2月4日)。
これは、保佐人については財産の管理能力・権限がある一方で、未成年者には財産の管理能力・権限がない、という理由によるものです。
用語の定義
更新(時効)とは?
【意味・定義】更新(時効)とは?
時効制度における更新とは、特定の事由が発生した場合に、時効の期間がリセットされて、新たに時効期間の進行が開始することをいう。
行為能力とは?
制限行為能力者とは?
【意味・定義】制限行為能力者とは?
制限行為能力者とは、行為能力が制限される「(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第17条第1項の審判を受けた被補助人」(第13条第1項第10号)をいう。
改正情報等
新旧対照表
民法第152条(承認による時効の更新)新旧対照表 | |
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改正法 | 旧法 |
改正民法第152条(承認による時効の更新) 1 時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。 2 前項の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。 | 旧民法第152条(破産手続参加等) 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加は、債権者がその届出を取り下げ、又はその届出が却下されたときは、時効の中断の効力を生じない。 |
本条は、平成29年改正民法(2020年4月1日施行)により、以上のように改正されました。
改正情報
旧民法第152条は改正民法第147条第1項第4号へ移行
旧民法第152条の内容は、改正民法第147条第1項第4号において規定されました。
これにより、本条は削除のうえ、本項には、承認の行為能力・権限(旧民法第153条)が旧民法第156条から移行されました。
内容については、実質的には旧民法第156条と変更はありません。
旧民法第156条(承認)
時効の中断の効力を生ずべき承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力又は権限があることを要しない。
「中断」「停止」から「完成猶予」「更新」へ
旧民法では、時効について、「中断」という用語が使われていました。
この「中断」は、改正後の「完成猶予」と「更新」の両方の意味で使われており、非常に理解しづらいものでした。
このため、平成29年改正民法では、時効制度全般において、「中断」の用語の意味を整理し、内容に応じて、「完成猶予」と「更新」に改めました。
「停止」から「完成猶予」へ
旧民法における時効の「停止」については、あたかも時効の進行そのものが停止するかのような誤解の原因となりかねないものでした。
このため、こちらも併せて「完成猶予」という表現に改められています。