民法第93条第1項(心裡留保)の条文
第93条(心裡留保)
1 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
2 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
民法第93条第1項(心裡留保)の解説
趣旨
本項は、意思表示のうち、心裡留保とその効果について規定しています。
本項の規定により、意思表示は、その意思表示をする者=表意者が、自身の真意ではないことを知りながらおこなった場合であっても、有効となります。
ただし、相手方が、その意思表示が表意者の真意でないことを知り、または知ることができた場合は、その意思表示は無効(第119条参照)、つまり始めから無かったことになります。
心裡留保は、真意がないため、いわゆる「意思の欠缺(意思の不存在)」のひとつとされます。
心裡留保の具体例は?
本項により、本当の意思(真意)ではない意思表示をした場合は、その意思表示は、真意ではないにもかかわらず有効となります。
具体的には、冗談やウソのような心裡留保が該当します。
このため、冗談であろうとウソであろうと、いったん意思表示をした以上は、その冗談やウソを言った表意者は、その意思表示に法的に責任を持たなければなりません。
ただし、意思表示の相手方が、その意思表示が冗談やウソであり、真意によらないものだということを知っていたか、または知ることができた場合は、その意思表示は無効となります。
なお、本条を「通謀虚偽表示」(第94条第1項参照)との対比で、「単独虚偽表示」と表現することもあります。
用語の定義
意思表示とは?
【意味・定義】意思表示とは?
意思表示とは、「一定の法律効果の発生を欲する旨の意思の表明」(法務省民事局『民法(債権関係)の改正に関する説明資料-主な改正事項-』p.35)をいう。
無効とは?
改正情報等
新旧対照表
民法第93条第1項(心裡留保)新旧対照表 | |
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改正法 | 旧法 |
改正民法第93条(心裡留保) 1 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。 2 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。 | 旧民法第93条(心裡留保) 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。 (新設) |
本条は、平成29年改正民法(2020年4月1日施行)により、以上のように改正されました。
改正情報
本項は、従来は「表意者の真意」について知り、または知ることができたかが規定されていました。
しかし、実際には、「真意」の具体的な内容よりも、「真意でないこと」を知っているか、または知ることができたのであれば、その相手方は保護に値しません。
この法改正は、こういった内容を明文化したものです。
契約実務における注意点
契約実務においては、しっかりとした契約書を作成し、有効な手続で結んだ契約であれば、たとえ契約の当事者が冗談で契約書にサインしたとしても、本条のとおり、意思表示が有効となるものと考えられます。
本条により、冗談やウソで契約書にサインしたとしても、よほどの事情がない限り、その冗談やウソが、冗談やウソでは済まされなくなります。
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