民法第121条の2第2項(原状回復の義務)の条文
民法第121条の2(原状回復の義務)
1 無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う。
2 前項の規定にかかわらず、無効な無償行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、給付を受けた当時その行為が無効であること(給付を受けた後に前条の規定により初めから無効であったものとみなされた行為にあっては、給付を受けた当時その行為が取り消すことができるものであること)を知らなかったときは、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。
3 第1項の規定にかかわらず、行為の時に意思能力を有しなかった者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。行為の時に制限行為能力者であった者についても、同様とする。
民法第121条の2第2項(原状回復の義務)の解説
趣旨
本項は、無効な無償行為にもとづく債務の給付があった場合についての現存利益の返還義務を規定した条項です。
本項により、なんらかの無効な無償行為にもとづく債務の給付を受けた者は、その無償行為が無効であること(取消しによって無効となった場合は取消し得たこと)を知らなかった場合は、現に利益を受けている限度で返還義務を負います。
ここでいう「無償行為」とは、贈与契約のように、行為を受ける側に代償が発生しない行為のことです。
なお、無効(取消し得たこと)を知っていた場合(悪意)は、第1項が適用され、原状回復義務が課されます。
現に利益を受けている限度とは?
本項にいう「現に利益を受けている限度」とは、民法第703条の「利益の存する限度」と同様であり、これらを「現存利益」といいます。
【意味・定義】現存利益とは?
現存利益は、「現に利益を受けている限度」(民法第121条の2第2項)や「利益の存する限度」(民法第703条)の略称であり、利益がそのままで、または(特に金銭として)形を変えて残存する限りのことをいう。
なお、生活費として金銭などを使った場合は、原則として、現存利益として残っているものと考えられています(大審院判決大正5年6月10日、大審院判決7月10日26日など)。
これに対し、ギャンブルで浪費した利益は現存しないものとされます(最高裁判決昭和50年6月27日)。
用語の定義
無効とは?
取消しとは?
悪意とは?
善意とは?
改正情報等
新旧対照表
民法第121条の2(原状回復の義務)新旧対照表 | |
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改正法 | 旧法 |
改正民法第121条の2(原状回復の義務) 1 無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う。 2 前項の規定にかかわらず、無効な無償行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、給付を受けた当時その行為が無効であること(給付を受けた後に前条の規定により初めから無効であったものとみなされた行為にあっては、給付を受けた当時その行為が取り消すことができるものであること)を知らなかったときは、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。 3 第1項の規定にかかわらず、行為の時に意思能力を有しなかった者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。行為の時に制限行為能力者であった者についても、同様とする。 | 旧民法第121条の2(原状回復の義務) (新設) |
本条は、平成29年改正民法(2020年4月1日施行)により、以上のように改正されました。
改正情報
本項は、改正により新設された条項です。
旧民法においては、無効な行為にもとづく債務の給付の原状回復義務については、特に明文の規定はありませんでした。
このため、第1項において、無効な(有償)行為にもとづく債務の給付について、原状回復義務を規定しました。
本項では、無効な無償行為にもとづく債務の給付については、給付を受けたものが無効(取消しによる無効の場合は取消し得るものであったこと)について知らなかった(善意)場合に、現存利益のみの返還義務を課しています。