民法第153条第3項(時効の完成猶予又は更新の効力が及ぶ者の範囲)の条文

第153条(時効の完成猶予又は更新の効力が及ぶ者の範囲)

1 第147条又は第148条の規定による時効の完成猶予又は更新は、完成猶予又は更新の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。

2 第149条から第151条までの規定による時効の完成猶予は、完成猶予の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。

3 前条の規定による時効の更新は、更新の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。




民法第153条第3項(時効の完成猶予又は更新の効力が及ぶ者の範囲)の解説

趣旨:時効の更新は当事者間のみ有効

本項は、時効の相対効について規定しています。

承認(第152条)による時効の更新は、承認があった当事者およびその承継人の間においてのみ、その効力を有します。

本項により、時効の更新事由は、当事者(およびその承継人)の間でだけ効果が生じ、当事者(およびその承継人)とそれ以外の第三者との間では効果が生じません。

これを「時効の相対効」といいます。

【意味・定義】時効の相対効とは?

時効の相対効とは、時効の完成猶予・更新が、その時効の完成猶予事由・更新事由が生じた当事者・その承継人の間において効力を有し、当事者・その承継人と第三者との間では効力を有しないことをいう。

時効の相対効の具体例

例えば、Aが、その所有する土地を占有しているBとCに対して時効の更新に該当する行為(Aの所有権を認めさせる行為)をおこなう場合において、Bに対してだけその行為をおこなったときは、その効果はBに対してだけ生じ、Cに対しては生じません。

このため、Aとしては、すべての土地について時効の更新をさせたい場合は、Bだけでなく、Cに対しても、時効の更新事由に該当する行為をおこなわなければなりません。

なお、この例で時効が完成した場合は、Cは、その土地のうち、半分の持分を取得できます。




用語の定義

完成猶予(時効)とは?

【意味・定義】完成猶予(時効)とは?

時効制度における完成猶予とは、特定の事由が存在する間に、時効は進行するものの、時効の完成が一定期間は猶予されることをいう。

更新(時効)とは?

【意味・定義】更新(時効)とは?

時効制度における更新とは、特定の事由が発生した場合に、時効の期間がリセットされて、新たに時効期間の進行が開始することをいう。

完成(時効)とは?

【意味・定義】完成(時効)とは?

時効制度における完成とは、時効の期間が満了することをいう。




改正情報等

新旧対照表

民法第153条(時効の完成猶予又は更新の効力が及ぶ者の範囲)新旧対照表
改正法旧法

改正民法第153条(時効の完成猶予又は更新の効力が及ぶ者の範囲)

1 第147条又は第148条の規定による時効の完成猶予又は更新は、完成猶予又は更新の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。

2 第149条から第151条までの規定による時効の完成猶予は、完成猶予の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。

3 前条の規定による時効の更新は、更新の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。

旧民法第153条(催告)

催告は、6箇月以内に、裁判上の請求、支払督促の申立て、和解の申立て、民事調停法 若しくは家事審判法 による調停の申立て、破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加、差押え、仮差押え又は仮処分をしなければ、時効の中断の効力を生じない。

本条は、平成29年改正民法(2020年4月1日施行)により、以上のように改正されました。

旧民法第153条は改正民法第150条第1項へ移行

旧民法第153条の内容は、改正民法第150条第1項第1項において規定されました。

これにより、本条は削除のうえ、本項では、時効の相対効(旧民法第148条)が移行され、承認に関して規定されました。

旧第148条(時効の中断の効力が及ぶ者の範囲)

前条の規定による時効の中断は、その中断の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。

「中断」「停止」から「完成猶予」「更新」へ

旧民法では、時効について、「中断」という用語が使われていました。

この「中断」は、改正後の「完成猶予」と「更新」の両方の意味で使われており、非常に理解しづらいものでした。

このため、平成29年改正民法では、時効制度全般において、「中断」の用語の意味を整理し、内容に応じて、「完成猶予」と「更新」に改めました。

「停止」から「完成猶予」へ

旧民法における時効の「停止」については、あたかも時効の進行そのものが停止するかのような誤解の原因となりかねないものでした。

このため、こちらも併せて「完成猶予」という表現に改められています。




契約実務における注意点

本項の規定があるため、複数の当事者による時効について更新をさせる場合は、その複数の当事者すべてに対して時効の更新事由に該当する行為をおこなわなければなりません。

そうしないと、上記の例のように、中途半端な形で部分的に時効が成立する可能性があります。

注意すべき契約書

  • すべての契約書