民法第162条第1項(所有権の取得時効)の条文
第162条(所有権の取得時効)
1 20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2 10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
民法第162条第1項(所有権の取得時効)の解説
趣旨
本項は、所有権の取得時効について規定しています。20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物(第85条参照)を占有した者は、その所有権を取得します。
所有の意思とは
本項における「所有の意思」とは、所有者として占有する意思のことです。
所有の意思がある占有を、「自主占有」といいます。所有の意思があるかどうかは、過去に取得時効の援用を巡る多くの裁判で争われています。
この点については、その判断は様々で、画一的な基準があるわけではありません。
ただし、「占有における所有の意思の有無は、占有取得の原因たる事実によって、外形的・客観的に定められるべきものである」(最高裁判決昭和45年6月18日)という判例があります。
また、「外形的・客観的にみて占有者が他人の所有権を排斥して占有する意図を有していなかったものと解される事情が証明されるときは、占有者の内心の意思いかんを問わず、所有の意思は否定される」(最高裁判決昭和58年3月24日)という判例もあります。
平穏にとは
本項における「平穏に」とは、「占有者がその占有を取得し、又は、保持するについて、暴行・強迫の行為を用いていない占有」をいいます(最高裁判決昭和41年4月15日)。
また、単に不法の占有であることで平穏の要件を欠くものではないとされます(大審院民事部判決大正5年11月28日)。
公然とは
本項における「公然」とは、占有者が占有する物を隠匿(第190条第2項参照)しないことをいいます。
占有とは
占有とは、「自己のためにする意思をもって物を所持すること」(第180条参照)をいいます。
契約実務における注意点
取得時効は、契約によらずに権利を取得する制度であるため、契約実務上は、さほど重要ではありません。
ただし、本項は、契約実務においては、「所有の意思」の点で問題となることがあります。
典型的な事例としては、不動産の賃借人に所有の意思があるかどうか、という問題があります。
この点について、土地賃借人として土地の占有を継続してきた者の所有の意思を否定した判例があります(大審院民事部判決昭和13年7月7日)。
このように、他人が占有する物であろうとも、その他人が「所有の意思」がない場合は、時効は認められません。
このため、他人に物を占有させる契約書(賃貸借契約書・リース契約書など)を起案する場合は、占有者の所有の意思を否定する規定を記載するべきです。
注意すべき契約書
- 不動産賃貸借契約書
- 土地賃貸借契約書
- 建物賃貸借契約書
- リース契約書