民法第179条(混同)第1項の条文

民法第179条(混同)の条文

1 同一物について所有権及び他の物権が同一人に帰属したときは、当該他の物権は、消滅する。ただし、その物又は当該他の物権が第三者の権利の目的であるときは、この限りでない。

2 所有権以外の物権及びこれを目的とする他の権利が同一人に帰属したときは、当該他の権利は、消滅する。この場合においては、前項ただし書の規定を準用する。

3 前2項の規定は、占有権については、適用しない。




民法第179条(混同)第1項の条文の解説

趣旨―所有権と所有権以外の物権の混同について規定した条文

本項は、所有権と他の物権=所有権以外の物権が同一人に帰属した場合における、所有権以外の物権の取扱いについて規定しています。

本項により、所有権と所有権以外の物権が同一人に帰属した場合は、原則として、所有権以外の物権が消滅し、所有権だけが残ります。

これを「物権の混同」といいます。

【意味・定義】物権の混同とは?

物権の混同とは、物権と所有権以外の別の物権が同一人物に帰属した場合に、その所有権以外の別の物権が消滅することをいう。ただし、占有権は除く。

ただし、例外として、所有権以外の物権が、第三者の権利の目的である場合は、その所有権以外の物権は、第三者の権利を存続させるため、消滅しません。

「所有権及び他の物権」とは

ここでいう「所有権」は、動産・不動産のいずれの場合も該当します。

もっとも、実務上、本項が適用されるのは、不動産の場合がほとんどです。

また、「他の物権」とは、所有権以外のあらゆる物権のことを意味します。

ただし、この「他の物権」には、占有権は含まれません(第179条第3項)。

本文の具体例―不動産の場合

Aが所有する土地の上に、Bが抵当権を設定した場合において、Bがその土地をAから相続したときは、その抵当権は、混同により消滅します。

同じように、AがBの抵当権を譲渡された場合も、その抵当権は消滅します。

このように、同一人物に所有権と所有権以外の制限物権が存在する意味はありません。

このため、本項によって、制限物権のほうが消滅します。

ただし書きの具体例―不動産の場合

「その物…が第三者の権利の目的であるとき」

A所有の土地に一番抵当権者のBと二番抵当権者のCがいる場合

このただし書きは、「その物」=所有権の対象となる物が、第三者の権利の目的である場合を想定しています。

例えば、A所有の土地(=「その物」)に、抵当権(Bの一番抵当権とCの二番抵当権)が設定されている場合が該当します。

こうした状況で、BがAからら土地の譲渡を受けた場合であっても、第三者であるCの二番抵当権があるため、本項ただし書きにより、Bの抵当権は、混合によっては消滅しません。

このため、仮に、土地が競売された場合は、通常どおり、Bは一番抵当権者として、債権の弁済を受けることができます。

例外―相続によりBの被担保債権が消滅した場合

ただし、上記の例で、Bが譲渡ではなく、相続によりAから土地を取得する場合があります。

こうした相続が発生した場合は、Bの一番抵当権の被担保債権が、AにとってのBに対する債務であることもあります。

つまり、Bの債権を担保するために、Aの土地に抵当権を設定し、後にCが二番抵当権を設定した場合です。

この土地と債務をBが単独相続した場合、Bの一番抵当権の被担保債権は、債権の混同(第520条)により消滅します。

また、一番抵当権も、抵当権の付従性により消滅します。

「当該他の物権が第三者の権利の目的であるとき」

また、このただし書きは、「他の権利」のほうが、第三者の権利の目的である場合も想定しています。

例えば、A所有の土地に、Bの地上権が設定されている場合において、さらにその地上権にCの抵当権が設定されているときなどが該当します(第369条第2項)。

この場合、BがAから土地の譲渡を受けたとしても、地上権に設定したCの抵当権を保護するため、本項ただし書きにより、Bの地上権は、混同によっては消滅しません。

判例(最高裁判決昭和46年10月14日)

特定の土地につき所有権と賃借権とが同一人に帰属するに至つた場合であつても、その賃借権が対抗要件を具備したものであり、かつ、その対抗要件を具備したのちに右土地に抵当権が設定されていたときは、民法179条1項但書の準用により、賃借権は消滅しないものと解すべきであり、このことは、賃借権の対抗要件が建物保護に関する法律1条によるものであるときでも同様である。




契約実務における注意点

本項は、担保物権に関係する不動産取引の契約実務では、重要な条文です。

もっとも、そもそも本項は、同一人物に帰属する物権は原則として混同する、という極めて当然の内容を規定したものに過ぎません。

このため、本項の適用を巡ってトラブルになることは、一般的な不動産取引では、まずありません。

ただし、相続の場合において、相続財産に担保を設定した被担保債権を有する相続人が複数いる場合は、トラブルになる可能性があります。

注意すべき契約書

  • 土地売買契約書
  • 建物売買契約書
  • 不動産売買契約書
  • 抵当権設定契約書
  • 地上権設定契約書
  • 建物賃貸借契約書
  • 土地賃貸借契約書
  • 遺産分割協議書