民法第178条(動産に関する物権の譲渡の対抗要件)の条文
民法第178条(動産に関する物権の譲渡の対抗要件)
動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない。
民法第178条(動産に関する物権の譲渡の対抗要件)の解説
趣旨―「動産の所有権譲渡の対抗要件=引渡し」の大原則
本条は、動産に関する物権変動の第三者への対抗要件が引渡しであるという、大原則を規定したものです。
「第三者に対抗することができない」とは、第三者に対して、「物権の譲渡」を主張できない、ということです。
なお、本条の物権は、事実上、所有権だけに限ります。
「動産」とは
動産とは、「不動産以外の物」(第86条第2項)です。
不動産は、「土地及びその定着物」(第86条第1項)ですので、動産の定義は、次のとおりです。
【意味・定義】動産とは?
動産とは、「土地及びその定着物」以外のものをいう。
なお、「商行為を為す目的をもって航海の用に供する」船舶(商法第684条)は、動産であっても、登記が対抗要件となっています(商法第687条)。
「物権の譲渡」とは
本条における「物権」とは、事実上、所有権のみに限られます。
他の物権(占有権、留置権、質権)については、それぞれ別途の規定があります。
先取特権については、占有を必要としません。
また、本条における物権変動は、文字どおり「譲渡」に限ります(通説)。
「引渡し」とは
本条における「引渡し」とは、いわゆる「占有権」(第182条第1項)の移転を意味します。
いわゆる「納品」のように、事実上の支配を移転する「現実の引渡し」は、当然に「引渡し」に該当します。
また、現実の引渡しを伴わない形の「占有権の移転」も本条の「引渡し」に該当します(判例・通説)。
ポイント
- 現実の引渡し(第181条第1項)
- 簡易な引渡し(第182条第2項)
- 占有改定(第183条)
- 指図による占有移転(第184条)
「第三者」とは
本条の第三者とは、第177条の第三者と同様に、「引渡しの欠缺を主張するについて正当の理由を有する第三者」とされています。
つまり、当事者以外の者の全員が、本条における第三者というわけではありません。
あくまで、引渡しがないことを主張することについて、正当な理由がある第三者だけが、本条の第三者に該当します。
「対抗できない」とは
本条における「対抗できない」とは、第三者に対して、物権の譲渡について、(引渡しがなければ)主張できないということです。
契約実務における注意点
本条は、第三者との関係について規定しているものであり、当事者間の合意である契約には、直接影響することはめったにありません。
一般的な契約実務における「引渡し」は、いわゆる「納入」であり、その実態は、ほとんどの場合は「現実の引渡し」です。
もっとも、実際には、「現実の引渡し」以外の納入もあり、こうした納入の場合は、第三者との関係でトラブルになる可能性もあります。
このため、こうした「現実の引渡し」以外の引渡し=占有権の移転による納入がある場合は、特に第三者との関係でトラブルとならないよう、本条と第192条をよく把握しておく必要があります。
注意すべき契約書
- 動産の売買契約書
- 製造請負請負書
- 取引基本契約書