民法第86条第1項(不動産及び動産)の条文

第86条(不動産及び動産)

1 土地及びその定着物は、不動産とする。

2 不動産以外の物は、すべて動産とする。




民法第86条第1項(不動産及び動産)の解説

趣旨

本項は、不動産の定義について規定しています。

民法において、不動産とは、土地や、その土地に定着している物、つまり建物や立木、橋、石垣などをいいます。

【意味・定義】不動産とは?

不動産とは、土地および建物・立木・橋・石垣等の土地の定着物をいう。

民法では、不動産と動産とでは、その扱いが大きく異なってきます。

このため、物が不動産であるか動産であるかは、法的にも契約実務のうえでも、重要なポイントになります。

土地について

土地が不動産であることについては、特に問題がありません(ただし、地中の鉱物などは例外。鉱業法第2条)。

ただし、海面については、様々な判例があるため、状況によって解釈が異なります。

建物について

建物については、どの時点で建物と言えるのかが問題となります(特に建設中の建物)。

この点については、判例の判断が様々で、一義的にどの時点で建物といえるかは基準がありません。

過去の判例では、次のとおり判示されています。

ポイント
  • 木材を組み立てて土地に定着させ、屋根を拭き上げたもの=建物とはいえない(大審院民事部判決大正15年2月22日)
  • 単に切り組みを済まし、降雨を凌ぐことができる程度に屋根葺きを終わっただけで、荒壁の仕事への着手が不明な時期のもの=建物とはいえない(大審院民事部判決昭和8年3月24日)
  • 屋根・囲壁ができたもの=床・天井ができていなくても建物とみなせる(ただし住宅用でないもの。大審院民事部判決昭和10年10月1日)

なお、建築途中であり、「建物といえない」ものは、土地に「従として符合した物」として、土地の所有者の所有物(定着物)扱いとなります。

定着物について

判例によると、「定着物とは、自然の形状に基づき、土地に付着した物をいうが、その自然の状態を毀損しなければ分離・移転できない物に限る趣旨ではない」(大審院民事部判決明治35年1月27日)とされています。

また、「土地の定着物とは、一時の用に供するためのでなく、土地に付着するものをいう」(大審院民事部判決大正10年8月10日)ともされています。

なお、機械については、基礎工事により土地に固着させられた機械(大審院民事部判決明治35年1月27日)は定着物とされています。

ただし、建物の一部や基礎にボルト、釘、スパイクなどで固定されただけでは、定着物とはいえません(大審院民事部判決昭和4年10月19日)。

立木について

立木は、「立木ニ関スル法律」(立木法)という特別法により、不動産として認められています。




契約実務における注意点

契約実務において、本項が問題となるのは、不動産売買契約、特に土地の売買契約の際に問題となります。

更地の土地の売買契約や、更地にして土地を引き渡す条件の売買契約であれば、特に問題にはなりません。

しかし、建物や立木以外の定着物がある土地を引き渡す条件の売買契約であれば、その定着物の取扱を契約条項として記載しておかなくてはなりません。

上記の機械の例のように、同じ機械であっても、状態によって、定着物か動産(第86条第2項参照)のいずれかに判断が分かれる場合もあります。

このため、このような取扱いを巡って解釈が分かれそうな物については、あらかじめ契約書にで取扱いを規定する必要があります。

土地や建物の売買だけに限った話ではありませんが、売買契約においては、対象となる物を明確にしておく必要があります。

注意すべき契約書

  • 物を対象とする契約書
  • 不動産売買契約書
  • 土地売買契約書
  • 建物売買契約書