民法第95条第4項(錯誤)の条文
第95条(錯誤)
1 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
(1)意思表示に対応する意思を欠く錯誤
(2)表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第2号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第1項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
(1)相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
(2)相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
4 第1項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
民法第95条第4項(錯誤)の解説
趣旨
本項は、民法第95条第1項の取消しについて、善意無過失の第三者を保護する規定です。
本来であれば、錯誤による意思表示は取消しができます。
しかしながら、本項により、その意思表示が錯誤であることを知らず、かつ知らないことについて過失が無い第三者に対しては、取消しを主張できません。
民法第95条第4項の具体例
本項により善意無過失の第三者の保護の具体例は、以下のような事例が考えられます。
民法第95条第4項の具体例
X社がオンラインショッピングモールにおいてパソコンを出品したところ、担当者が過って20万円と表記するべきものを2万円と表記してしまった(表示の錯誤)。この値段の表記についてなんら疑わずにパソコンを購入したYは、購入したパソコンを事情を知らないAに10万円で転売した。後日、2万円の表記は誤りであったとして、X社はYに対し錯誤による取消しを主張したものの、本項により、Aに対しては、取消しを主張できない。
このように、誤解による契約そのものは取消すことができるものの、善意無過失の第三者には、取消しを主張することはできません。
用語の定義
意思表示とは?
【意味・定義】意思表示とは?
意思表示とは、「一定の法律効果の発生を欲する旨の意思の表明」(法務省民事局『民法(債権関係)の改正に関する説明資料-主な改正事項-』p.35)をいう。
取消しとは?
善意とは?
対抗することができないとは?
【意味・定義】対抗することができないとは?
対抗することができないとは、何らかの法的な効果について、(主に第三者に対して)主張できないことをいう。
改正情報等
新旧対照表
民法第95条(錯誤)新旧対照表 | |
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改正法 | 旧法 |
改正民法第95条(錯誤) 1 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。 (1)意思表示に対応する意思を欠く錯誤 (2)表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤 2 前項第2号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。 3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第1項の規定による意思表示の取消しをすることができない。 (1)相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。 (2)相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。 4 第1項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。 | 旧民法第95条(錯誤) 意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。 |
本条は、平成29年改正民法(2020年4月1日施行)により、以上のように改正されました。
改正情報
旧民法第95条には、善意無過失の第三者を保護する明文の規定はありませんでした。
しかしながら、従来から、民法第96条第3項の類推適用により、善意無過失の第三者は保護されてきました。
この改正は、こうした解釈を明文化したものです。