民法第97条第3項(意思表示の効力発生時期等)の条文
第97条(意思表示の効力発生時期等)
1 意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。
2 相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。
3 意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失し、又は行為能力の制限を受けたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。
民法第97条第3項(意思表示の効力発生時期等)の解説
趣旨
本項は、意思表示の後の死亡・意思能力の喪失、行為能力の制限があった場合の効果について規定しています。
意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失し、または行為能力の制限された場合であっても、その意思表示の効力は妨げられません(=有効)。
たとえ意思表示後に死亡し、意思能力を失い、行為能力を失ったとしても、意思表示を発信した時点では、有効な意思表示ができています。
このため、後に発生した事情(死亡、意思能力の喪失、行為能力の制限)によって、意思表示の効力が変わることはありません。
民法第526条による契約の申込みの特則
改正民法第526条では、契約の申込みについて、次のとおり特則を規定しています。
第526条(申込者の死亡等)
申込者が申込みの通知を発した後に死亡し、意思能力を有しない常況にある者となり、又は行為能力の制限を受けた場合において、申込者がその事実が生じたとすればその申込みは効力を有しない旨の意思を表示していたとき、又はその相手方が承諾の通知を発するまでにその事実が生じたことを知ったときは、その申込みは、その効力を有しない。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
つまり、他の意思表示と同様に、死亡し、意思能力を有しない状況(≠喪失)にある者となり、行為能力の制限を受けたとしても、以下の場合は、申込みが効力を有しなくなります。
申込みが効力を有しなくなる事由
- 申込者がその事実(死亡、意思能力を有しない状況にある者となること、行為能力の制限を受けること)が生じたとすればその申込みは効力を有しない旨の意思を表示していたとき。
- その相手方が承諾の通知を発するまでにその事実(申込者の死亡、意思能力を有しない状況にある者となったこと、行為能力の制限を受けたこと)が生じたことを知ったとき。
前者の場合は、申込者の意思を尊重することで、申込みの効力を無くします。
後者の場合は、相手方が申込者の死亡、意思能力の喪失、行為能力の制限があったことを知っていたのであれば、通常はその申込みを承諾することはないと考えられますから、その申込みの効力を無くします。
用語の定義
意思表示とは?
【意味・定義】意思表示とは?
意思表示とは、「一定の法律効果の発生を欲する旨の意思の表明」(法務省民事局『民法(債権関係)の改正に関する説明資料-主な改正事項-』p.35)をいう。
意思能力とは?
行為能力とは?
【意味・定義】●●とは?
●●とは、●●をいう。
改正情報等
新旧対照表
民法第97条(意思表示の効力発生時期等)新旧対照表 | |
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改正法 | 旧法 |
改正民法第97条(意思表示の効力発生時期等) 1 意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。 2 相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。 3 意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し | 旧民法第97条(隔地者に対する意思表示) 1 隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。 (新設) 2 隔地者に対する意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、又は行為能力を喪失したときであっても、そのためにその効力を妨げられない。 |
本条は、平成29年改正民法(2020年4月1日施行)により、以上のように改正されました。
改正情報
隔地者を削除
旧民法第97条第2項では、隔地者に対する意思表示についてのみ規定されていました。
この点について、第97条第1項同様に、隔地者とそうでない者を区別する合理的な理由はありません。
このため、隔地者に対するもののみならず、すべての意思表示を対象とするよう改正されました。
意思能力の喪失を追記・行為能力の制限を明記
また、旧法は、表意者に関する死亡と行為能力の喪失についてのみ規定されていました。
この点については、意思能力の喪失についても、追加される改正がおこなわれました。
また、「行為能力の喪失」ではなく「行為能力の制限」とすることで、保佐、補助も対象となるよう、明文化しました。
契約実務における注意点
すでに述べたとおり、契約の申込みに関しては、第525条の特則があります。
このため、第525条の特則に該当する場合は、契約の申込みの効力が無効となります。
第525条の特則に該当しない場合は、原則どおり本項が適用されます。
高齢者などの、死亡や行為能力の喪失が懸念される当事者との契約の場合、本項や第525条が適用される可能性も常に考慮しておく必要があります。
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