信義誠実の原則(信義則)とは

【意味・定義】信義誠実の原則(信義則)とは?

信義誠実の原則(信義則)の定義

信義誠実の原則(信義則)とは、私的取引関係において、相互に相手方を信頼し、誠実に行動し、裏切らないようにするべき原則のこと。

民法において、信義誠実の原則は、第1条第2項に規定されています。

信義誠実の原則は契約自由の原則を支える原則

自由な取引・契約は信義誠実の原則が大前提

信義誠実の原則は、私的な取引関係や契約関係の根本に関わる、非常に重要な原則です。

私的な取引や契約は、いわゆる「契約自由の原則」により、自由におこなうことができます。

これは、裏を返せば、取引や契約において、相手方が誠実であり、裏切ることがない、ということが前提となります。

このため、民法では、自由な取引や契約を成り立たせる大前提として、信義誠実の原則を第1条第2項に規定して、取引や契約の当事者に対し、誠実な行動を義務づけています。

信義誠実の原則は直接適用されることは少ない

信義誠実の原則は、「原則」であるため、民法をはじめ、多くの法律の条文に影響を与えています。

ただ、逆に「原則」だからこそ、実務ではまず使われることがない理論でもあります。

実際、裁判などでは、信義誠実の原則が直接の根拠となることは、めったにありません。

例外的に、条文をそのまま解釈すると、本来のその条文の趣旨に反する場合や、そもそも法律の条文が存在しない場合などに、根拠となることがあります。

契約の解釈は信義誠実の原則による

信義誠実の原則は、権利の行使や義務の履行についての解釈だけではなく、契約の趣旨の解釈の基準ともなります(最高裁判決昭和32年7月5日)。

…いわゆる信義誠実の原則は、ひろく債権法の領域に適用されるものであつて、ひとり権利の行使、義務の履行についてのみならず、当事者のした契約の趣旨を解釈するにもその基準となるべきものである…

信義誠実の原則の具体例・判例

大審院判決大正14年12月3日(「大豆粕深川渡し事件」)

本件は、売買契約において、物品の引渡し場所が不明である場合、信義誠実の原則にもとづき、買主が売主に引渡し場所を問い合わせるべきである、とした判例です。

本件では、大豆粕の売買契約において、物品の引渡しについて「深川渡し」としか規定がなく、(東京の)深川のどの場所での引渡しになるのか、不明であったことが問題となりました。

買主は、「深川渡し」では引渡し場所が不明であり、具体的な引渡し場所は売主が指定するべきなのにしなかったと主張しました。

しかし、判決では、信義誠実の原則により、買主が、売主に対し、具体的な引渡し場所を問い合わせるべきである、と判示しました。

このため、買主による代金の支払いの遅れ(=履行遅滞)は、免責されないとされました。

最高裁判決昭和51年4月23日

…上告人が本件売買の時から7年10か月余を経た後に本訴を提起し、右売買の無効を主張して売買物件の返還又は返還に代わる損害賠償を請求することは、信義則上許されないものと解するのが相当である…

本件は、売買契約の成立から7年10ヶ月を経過した場合、その売買契約の無効を主張するのは、信義則許されない、とした判決です。

本件では、売主である財団法人が、寄付行為の目的の範囲外の事業をおこなうために、病院の敷地・建物・備品器具等を売却した売買契約の有効性が問題となりました。

判決では、以下の点から、売買契約の無効の主張は信義則上許されないとしました。

売買契約の無効の主張が信義則上許されなかった理由

  • 売主が、売買契約に先立ち、契約を有効にするため、寄附行為の変更についての評議員会の決議を経たにもかかわらず、その認可申請の手続をとることなく放置したまま、売買および代金の授受をおこなった。
  • 売主は、昭和21年3月20日付で寄附行為の変更につき主務官庁の認可を得て本件売買の追認が可能となった段階で、買主から本件売買物件の買戻の交渉を受けながら、売主にはその資金もなく、病院経営の意思もないとしてこれを拒絶した。
  • こうした状況であるため、買主が第三者に対し本件売買物件を転売した際には、買主と第三者としては、売主が当初の売買契約の無効を主張しないものと信じ、また、そのように信じるにつき、正当の事由があった。

最高裁判決平成9年3月27日

加入電話契約者の承諾なしにその未成年の子が利用したいわゆるダイヤルQ2事業における有料情報サービスに係る通話料のうちその金額の5割を超える部分につき第1種電気通信事業者が加入電話契約者に対してその支払を請求することが信義則ないし衡平の観念に照らして許されないとされた事例

信義誠実の原則から派生した原則

信義誠実の原則の派生3原則とは?

信義誠実の原則からは、次の3つの原則が派生しています。

信義誠実の原則から派生した原則

  • 禁反言(エストッペル)の原則
  • クリーンハンズの原則
  • 事情変更の原則

【意味・定義】禁反言(エストッペル)の原則とは?

禁反言(エストッペル)の原則の定義

「禁反言(エストッペル)の原則」とは、自分の言動に矛盾した態度をしてはならない、という原則。

【意味・定義】クリーンハンズの原則とは?

クリーンハンズの原則の定義

「クリーンハンズの原則」とは、自ら法を尊重し、義務を履行する者だけが、他人に対しても、法を尊重することや義務を履行るすことを要求ができる、という原則。

【意味・定義】事情変更の原則とは?

事情変更の原則の定義

「事情変更の原則」とは、契約を結んだ後に、その契約条件をそのまま当事者に強制することが著しく不公平になる事情が生じた場合には、その契約の解除や契約条件の変更ができる、という原則。

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契約実務における注意点

契約書に信義誠実の原則を書いても意味がない

契約書の冒頭、特に第1条の目的条項に、「信義誠実の原則」に似たような条項(いわゆる「信義則条項」)が規定されている場合があります。

記載例・書き方

第1条(目的)

甲および乙は、相互反映の理念にもとづき、信義誠実の原則に従って、本契約を履行するものとする。

(※便宜上、表現は簡略化しています)

このような条項は、法的には、特に必要ありません。

そもそも、信義誠実の原則は、民法第1条第2項に規定されている、当然の原則です。

このため、契約書にわざわざ書かなくても、信義誠実の原則は、当然に適用されます。

契約交渉段階における説明責任・情報提供義務に注意

契約交渉段階では、信義誠実の原則により、説明責任・情報提供義務が課される場合があります。

契約交渉や契約締結に必要な情報は、各契約当事者が自ら収集するのが原則です。

ただ、契約交渉段階であっても、各契約当事者は、まったく関係のない第三者とは違って緊密な関係にあるため、信義誠実の原則にもとづく説明責任・情報提供義務が発生します。

この説明責任・情報提供義務を果たさなかった場合、不法行為による損害賠償責任を負います。

契約の一方当事者が,当該契約の締結に先立ち,信義則上の説明義務に違反して,当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合には,上記一方当事者は,相手方が当該契約を締結したことにより被った損害につき,不法行為による賠償責任を負うことがあるのは格別,当該契約上の債務の不履行による賠償責任を負うことはない。

なお、平成29年改正民法では、契約交渉段階における説明責任・情報提供義務は、明文化は見送られてました(だからといって、説明責任・情報提供義務がないわけではありません)。