民法第158条第1項(未成年者又は成年被後見人と時効の完成猶予)の条文
民法第158条第1項(未成年者又は成年被後見人と時効の完成猶予)
1 時効の期間の満了前6ヶ月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から6ヶ月を経過するまでの間は、その未成年者又は成年被後見人に対して、時効は、完成しない。
2 未成年者又は成年被後見人がその財産を管理する父、母又は後見人に対して権利を有するときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は後任の法定代理人が就職した時から6ヶ月を経過するまでの間は、その権利について、時効は、完成しない。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
民法第158条第1項(未成年者又は成年被後見人と時効の完成猶予)の解説
趣旨:未成年者・成年被後見人を保護するための時効の完成猶予
本項は、未成年者または成年被後見人の保護のための時効の完成猶予について規定しています。
時効の期間の満了前6ヶ月以内の間に未成年者(第4条参照)または成年被後見人(第7条参照)に法定代理人がない場合は、その未成年者もしくは成年被後見人が行為能力者となった時点または法定代理人が就職した時から6ヶ月を経過するまでの間は、その未成年者、または成年被後見人に対して、時効の完成が猶予されます。
民法第158条第1項(未成年者又は成年被後見人と時効の完成猶予)の補足
行為能力者となる時点・法定代理人の就職時点から6ヶ月後まで時効は猶予される
未成年や成年被後見人に、その保護者である法定代理人(未成年者にあっては親権者または未成年後見人、成年被後見人にあっては成年後見人)がない場合、未成年者や成年被後見人が保護されていない状態であるといえます。
この状態で時効が完成した場合、未成年者や成年被後見人にとっては、保護者がいない状態で財産・権利の移転・消滅があることになります。
これでは、未成年者や成年被後見人の保護に欠けることになります。
そこで、本項により、時効の期間の満了前の6ヶ月以内の間は、未成年者や成年被後見人が行為能力者となった時点から、または法定代理人が就任した時点から6ヶ月間の猶予期間を設けて、その猶予期間中は、時効の完成は猶予されることにしました。
単に利益を得る時効は完成猶予がない
もっとも、本項により完成しない時効は、未成年者や成年被後見人に対して不利益となる時効だけです。
このため、未成年者や成年被後見人にとって、単に利益となる時効は完成します。
「法定代理人がないとき」=以前からいない場合も含む
なお、「法定代理人がないとき」とは、時効の期間の満了前の6ヶ月以内の間に法定代理人が欠けてしまった場合を意味します。
また、以前からいなかった場合も含みます。
用語の定義
未成年者とは?
【意味・定義】未成年者とは?
未成年者とは、18歳未満の成年でない者をいう。
成年被後見人とは?
【意味・定義】成年被後見人とは?
成年被後見人とは、物事の認識ができない者であって、家庭裁判所からの後見開始の審判を受けたものをいう。
法定代理人とは?
行為能力者とは?
【意味・定義】行為能力者とは?
行為能力者とは、行為能力の制限を受けない者をいう。
完成(時効)とは?
【意味・定義】完成猶予(時効)とは?
時効制度における完成猶予とは、特定の事由が存在する間に、時効は進行するものの、時効の完成が一定期間は猶予されることをいう。
完成猶予(時効) とは?
【意味・定義】完成猶予(時効)とは?
時効制度における完成猶予とは、特定の事由が存在する間に、時効は進行するものの、時効の完成が一定期間は猶予されることをいう。
更新(時効)
【意味・定義】更新(時効)とは?
時効制度における更新とは、特定の事由が発生した場合に、時効の期間がリセットされて、新たに時効期間の進行が開始することをいう。
時効の援用とは?
【意味・定義】時効の援用とは?
時効の援用とは、時効の利益を受ける旨の主張することをいう。
改正情報等
新旧対照表
民法第158条第1項(未成年者又は成年被後見人と時効の完成猶予)新旧対照表 | |
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改正法 | 旧法 |
改正民法第158条第1項(未成年者又は成年被後見人と時効の完成猶予) 1(略) 2(略) | 旧民法第158条第1項(未成年者又は成年被後見人と時効の停止) 1(同左) 2(同左) |
本条は、平成29年改正民法(2020年4月1日施行)により、以上のように改正されました。
改正情報
見出しのみの改正
本条は、見出しが「停止」から「完成猶予」となりましたが、本文や内容に変更はありません。
「中断」「停止」から「完成猶予」「更新」へ
旧民法では、時効について、「中断」という用語が使われていました。
この「中断」は、改正後の「完成猶予」と「更新」の両方の意味で使われており、非常に理解しづらいものでした。
このため、平成29年改正民法では、時効制度全般において、「中断」の用語の意味を整理し、内容に応じて、「完成猶予」と「更新」に改めました。
「停止」から「完成猶予」へ
旧民法における時効の「停止」については、あたかも時効の進行そのものが停止するかのような誤解の原因となりかねないものでした。
このため、こちらも併せて「完成猶予」という表現に改められています。
契約実務における注意点
本項が適用される未成年者や成年被後見人の場合、時効の完成が6ヶ月間猶予されます。
このため、本項が適用される者が相手方の時効の援用により財産・権利の移転・消滅がある場合は、この猶予期間中に、時効が更新となるような措置を取るべきです。
また、逆に本項に該当する未成年者や成年被後見人に対し時効を援用する場合、この猶予期間が経過してから時効を援用するべきです。
というのも、この猶予期間中に時効の援用を主張した場合、相手方に時効の完成が近いことを知られてしまい、時効を中断させるような措置を取られてしまう可能性があるからです。
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