民法第90条(公序良俗)の条文
第90条(公序良俗)
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
民法第90条(公序良俗)の解説
趣旨
本条は、公序良俗とその違反の効果について規定しています。
公の秩序(国家や社会などの一般的な秩序)や、善良の風俗(社会の一般的な道徳的観念や社会通念)に反する法律行為は、無効となります。
つまり、社会的な妥当性に欠けるような法律行為や契約は、無効、つまりはじめから無かったことになります(第119条参照)。
どのような行為が本条に該当する=公序良俗違反となるのかは、その行為によって個別・具体的に判断しなくてはなりません。
公序良俗違反とは?
過去の判例の傾向によると、公序良俗違反は、大きく分けて以下のように分類されます。
過去の判例にもとづく公序良俗違反の具体例
- 人倫に反する行為(例:既婚者との婚約)
- 正義の観念に反する行為(例:賭博行為)
- 個人の自由を極度に制限する行為(例:芸娼妓契約)
- 暴利行為(例:過度の違約金)
だた、これらの内容は、時代の変化に応じて刻々と変わってきています。
中には、本条にもとづいた判例が立法化されたものなどもあります。
用語の定義
法律行為とは?
【意味・定義】法律行為とは?
法律行為とは、行為者が法律上の一定の効果を生じさせようと意図して意思表示をおこない、意図したとおりに結果が生じる行為をいう。
無効とは?
改正情報等
新旧対照表
民法第90条(公序良俗)新旧対照表 | |
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改正法 | 旧法 |
改正民法第90条(公序良俗) 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。 | 旧民法第90条(公序良俗) 公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。 |
本条は、平成29年改正民法(2020年4月1日施行)により、以上のように改正されました。
改正情報
本条では、平成29年改正民法により、「事項を目的とする」が削除されました。
この改正は、公序良俗違反が、「法律行為の目的となる事項」だけが、その判断基準ではないことを明確にするためにおこなわれたものです。
公序良俗違反は、法律行為の目的(ただし、この場合は、一般的な意味ではなく「内容」であるとされています)だけでなく、過程やその他の全般的な事情を考慮して判断されます。このため、「事項を目的とする」は削除されました。
契約実務における注意点
優位な立場の契約交渉こそ注意を要する
契約実務においては、本条は、さほど問題になることはありません。
通常、契約内容が対等に近い場合は、本条を原因として、契約が無効となることはありません。
しかし、契約交渉の立場が優位な当事者の場合、契約書を作成する際は、注意を要します
というのも、このような優位な立場の場合、どうしても、一方的に(過度に)有利な契約内容としがちだからです。
賠償額の予定・違約金に注意
特に、事業上の契約の場合、上記の類型の4.暴利行為に該当する可能性があるような契約内容を規定しがちです。
具体的には、損害賠償責任に関する規定で、本条に抵触するほど、高額な金額を設定する場合が該当します。
つまり、過度に高額な賠償額の予定(第420条第1項)、違約金(同第3項)を設定した場合は、本条違反となり、無効となる可能性があります。
このため、特に損害額の予定や、違約金を設定する場合、過度な金額を設定しないよう、注意しなければなりません。
他の法律の違反で無効となることがある
なお、本条が直接適用されないまでも、本条と同様の趣旨の法律により、契約内容が無効となったり、損害賠償の対象となったりすることもあります。
具体的な法律としては、企業間取引の契約では、独占禁止法や下請法が該当します。
また、事業者と消費者との契約では、消費者契約法や特定商取引法などが該当します。
このため、実際に契約書を作成する際は、本条も重要ですが、より個別具体的な法律を念頭に置きながら作成する必要があります。
注意すべき契約書
- 事業者間の契約書
- 事業者と消費者との契約書