民法第113条第1項(無権代理)の条文

第113条(無権代理)

1 代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。

2 追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない。




民法第113条第1項(無権代理)の解説

趣旨

本項は、無権代理の効力について規定しています。

有効な代理権のない者が他人の代理人として契約を結んでしまった場合、その契約は、本人がその契約を追認をしない限り、本人に対して効力が生じません。

本項は、本人にとっては何も知らない他人が勝手に代理人となってしまうことを防止するための条文です。

本項により、無権代理人が勝手に本人の財産を処分したり、本人のために高額な商品を買ったりするようなことは、できないようになっています。

無権代理・狭義の無権代理・広義の無権代理

本項の見出しにあるとおり、本項は、「無権代理」といいます。

ただ、表見代理(第109条第110条第112条)も、代理権が無いという点においては、無権代理といえます。

このため、本項の代理権がない代理を「狭義の無権代理」、本項と表見代理を含む広い意味で代理権がない代理を「広義の無権代理」ということもあります。

この両者の関係から、代理権のない代理には、原則として本項が適用され表見代理の場合は、それぞれ該当する規定が例外として適用されます。

追認とは

本項における追認は、あくまで無権代理についての追認であり、第122条以下の追認とは別物です。

また、追認の方法には、格別制限はありません。例えば、無権代理人が結んだ契約にもとづいて、本人が相手方に対して請求をおこなうことは、黙示の追認とされます(大審院民事部判決大正3年10月3日)。

この点については、法定追認にも同様の趣旨の規定があります(第125条第2号参照)。

なお、追認があった場合は、有効な代理行為として効力が発生し、本人にその効果が帰属します(第116条参照)。

無権代理の相続について

無権代理があった後に、当事者の間で相続が発生した場合、その相続による無権代理の有効・無効が問題となります。

この点について、無権代理人が本人を相続した場合、次のような判例があります。

無権代理人が本人を相続した場合の判例
  • 本人が自ら法律行為をしたのと同様な法律上の地位を生じる(最高裁判決昭和40年6月18日)。
  • 無権代理人を相続人に含む共同相続の場合は、共同相続人全員の追認が無い限り、無権代理は有効とならない(最高裁判決平成5年1月21日)。
  • 本人が無権代理行為を拒絶した場合は、その後に無権代理人が本人を相続したとしても、無権代理行為は有効とならない(最高裁判決平成10年7月17日)。

また、本人が無権代理人をした場合、次のような判例があります。

本人が無権代理人を相続した場合の判例
  • 無権代理行為は、本人の相続により当然有効となるものではない(最高裁判決昭和37年4月20日)。
  • 無権代理人に第117条第1項にもとづく債務がある場合、その債務は本人に相続され、その債務を免れることはできない(最高裁判決昭和48年7月3日)。




契約実務における注意点

契約実務の現場では、契約の当事者が代理人であることは、よくあることです。

このような場合、代理人が有効な代理権にもとづく正式な代理人かどうかを確認する必要があります。

代理権を確認する一般的な方法は、委任状の提示です。

この際、より正確に確認するためには、委任状の印影について、本人の印鑑登録証明書を提示してもらいます。

こうすることで、委任状が有効なものであることを確認します。

このような確認をすることで、本項が適用されて代理人との契約などが無効となる可能性はかなり低くなります。

万が一、本項が適用されて代理人の行為が無権代理となった場合、第114条以下の規定により、無権代理の相手方は保護され、無権代理人は責任を追求されることになります。

もっとも、理論上は無権代理人の責任が追求できるとはいえ、現実に救済を受けることができるかどうかは、無権代理人の資力などによりまし、何より時間がかかったり、煩雑な手続き(裁判など)を経たりしなければなりません。

このため、なるべく無権代理には巻き込まれないようにするべきです。

無権代理に関連して、会社との事業上の契約実務においては、契約交渉の相手方が契約を結ぶ権限を有しているかどうかが問題となることがあります。

株式会社や有限会社との契約の場合、原則として、契約を結ぶ権限を有している者は、会社法にもとづく会社の代表権や代理権を有している者(代表取締役や支配人など)に限られます。

例外として、会社法や判例により、契約を締結する権限を有している者の範囲は、比較的広く解釈されています。

一般的には、課長級以上の役職を持つ者との契約は、有効に成立するとされています。

このような事情があるものの、高額な取引となる契約や、事業の根幹にかかわる契約の場合は、代表権者と直接契約を交わしたり、代表権者の正式な委任状と印鑑登録証明書を要求したりして、後々にトラブルにならないようにするべきです。

なお、無権代理の疑いがある場合は、契約締結後でも構いませんので、本人に対して、追認するかどうかの催告(第114条)をしてみてください。

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