民法第166条第3項(債権等の消滅時効)の条文
第166条(債権等の消滅時効)
1 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
(1)債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
(2)権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。
2 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から20年間行使しないときは、時効によって消滅する。
3 前2項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を更新するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。
民法第166条第3項(債権等の消滅時効)の解説
趣旨:始期付権利・停止条件付権利の目的物の消滅時効・取得時効の進行
本項は、始期または停止条件付きの権利の目的物にかかる消滅時効と取得時効の関係について規定しています。
前2項(第166条第1項・第166条第2項参照)の規定は、始期付権利(第135条第1項参照)または停止条件付権利(第127条第1項参照)の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時点から取得時効が進行することを妨げません。
ただし、権利者は、その時効を更新するため、いつでも占有者の承認(民法第152条第1項参照)を求めることができます。
民法第166条第3項(債権等の消滅時効)の補足
始期付権利・停止条件付権利の具体例
始期付権利や停止条件付権利の具体例は、以下のとおりです。
始期付権利・停止条件付権利の具体例
- 始期付権利:○月○日になったらある土地の譲渡を受けることができる権利
- 停止条件付権利:大学に合格したら自動車の譲渡を受ける権利
これらの権利については、第1項、第2項の規定のとおり、権利を行使できる時から消滅時効が進行します。
第三者による取得時効は占有の時から
他方、第三者がその土地や自動車(目的物)を占有していた場合、その目的物の占有開始の時点から取得時効が進行します。
つまり、権利者にとっての消滅時効は権利を行使できる時点から進行し、第三者による取得時効は目的物を占有した時点から進行します。
以上が、本項の本文の趣旨です。
権利者は自己に権利がなくても承認を求められる
ただし、権利者は、時効の更新のために、いつでも第三者に対し承認を求めることができます。
例えば、上記の設例の土地や自動車の譲渡を受ける者(権利者)は、その時効を更新のために、いつでも占有者の承認を求めることができます。
これは、たとえまだその権利が自己のものとなっていない場合(始期が到来していない場合や停止条件が成就していない場合)であってもできる、とされています。
これが、本条ただし書きの趣旨です。
用語の定義
承認とは?
【意味・定義】承認(時効)とは?
承認とは、時効の利益を受ける者がその時効の対象となっている権利の存在を認めることをいう。
改正情報等
新旧対照表
第166条(債権等の消滅時効)新旧対照表 | |
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改正法 | 旧法 |
改正第166条(債権等の消滅時効) 1 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。 (1)債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。 (2)権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。 2 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から20年間行使しないときは、時効によって消滅する。 3 前2項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を更新するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。 | 旧第166条(消滅時効の進行等) 1 消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。 (新設) 2 前項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を中断するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。 |
本条は、平成29年改正民法(2020年4月1日施行)により、以上のように改正されました。
改正情報
本項は、旧民法第166条第2項が移行されたものです。
内容に変更はありません。
契約実務における注意点
本項の本文は当然のことを規定しただけであり、むしろただし書きのほうが重要です。
通常の契約実務においては権利を行使するためには、その権利が自己のものになっていなければなりません。
本項は、その例外として、権利が自己のものとなっていない場合であっても、(更新にための承認を求めるものに限りますが)行使できます。
このため、契約において始期付権利や停止条件付権利を有した場合において、その権利の対象物について、第三者による取得時効が完成しそうなときは、本項にもとづいて、時効を更新するべきです。
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