民法第98条の2(意思表示の受領能力)の条文
第98条の2(意思表示の受領能力)
意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に意思能力を有しなかったとき又は未成年者若しくは成年被後見人であったときは、その意思表示をもってその相手方に対抗することができない。ただし、次に掲げる者がその意思表示を知った後は、この限りでない。
(1)相手方の法定代理人
(2)意思能力を回復し、又は行為能力者となった相手方
民法第98条の2(意思表示の受領能力)の解説
趣旨
未成年者・成年被後見人は意思表示の受領能力がない
本項は、意思表示の受領能力について規定しています。
意思表示の相手方が意思表示をした者(=表意者)から意思表示を受けた時点において次のいずれかに該当する場合、表意者は、これらの相手方に対して、意思表示を主張することはできません。
ただし、上記の者の法定代理人や、意思能力を回復した相手方、行為能力者となった相手方がその意思表示を知った後は、表意者は、その相手方に対して、意思表示を主張することができます。
意思無能力者・未成年者・成年被後見人から意思表示の受領の主張はできる
本項により、表意者は、意思無能力者、未成年者、成年被後見人に対しては、意思表示をしたことを主張できません。
ただし、逆に意思無能力者、未成年者、成年被後見人の側から意思表示を受けたことを主張することは差し支えありません。
つまり、表意者は自らは意思表示を主張できませんが、意思表示を受けた相手方は意思表示の受領を主張できます。
このため、相手方が意思無能力者・未成年者・成年被後見人の場合、表意者は、一方的に不利な立場になります。
本条は被保佐人・被補助人には適用されない
なお、本条では、制限行為能力者のうち、未成年者と成年被後見人についてのみ規定しています。
【意味・定義】制限行為能力者とは?
制限行為能力者とは、行為能力が制限される「(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第17条第1項の審判を受けた被補助人」(第13条第1項第10号)をいう。
このため、意思表示をする側は、被保佐人(第12条参照)と被補助人(第15条第1項参照)に対しては、通常の行為能力者と同じように、意思表示を受領を主張することができます。
例外として意思表示を対抗できる場合
なお、例外として、次の者が意思表示を知った場合は、表意者は、相手方に対し、意思表示を主張できます。
意思表示を主張できる者
- 相手方の法定代理人
- 意思能力が回復した相手方
- 行為能力者になった相手方
「法定代理人」とは
本条における法定代理人とは、未成年者にあっては親権者(一般的には親)または未成年後見人、成年被後見人にあっては成年後見人を意味します。
なお、一般的な法定代理人の定義は、以下のとおりです。
一般的な法定代理人の意味・定義につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
用語の定義
意思表示とは?
【意味・定義】意思表示とは?
意思表示とは、「一定の法律効果の発生を欲する旨の意思の表明」(法務省民事局『民法(債権関係)の改正に関する説明資料-主な改正事項-』p.35)をいう。
意思能力とは?
未成年者とは?
【意味・定義】未成年者とは?
未成年者とは、18歳未満の成年でない者をいう。
成年被後見人とは?
【意味・定義】成年被後見人とは?
成年被後見人とは、物事の認識ができない者であって、家庭裁判所からの後見開始の審判を受けたものをいう。
対抗することができないとは?
【意味・定義】対抗することができないとは?
対抗することができないとは、何らかの法的な効果について、(主に第三者に対して)主張できないことをいう。
改正情報等
新旧対照表
民法第98条の2(意思表示の受領能力)新旧対照表 | |
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改正法 | 旧法 |
改正民法第98条の2(意思表示の受領能力) 意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に意思能力を有しなかったとき又は未成年者若しくは成年被後見人であったときは、その意思表示をもってその相手方に対抗することができない。ただし、次に掲げる者がその意思表示を知った後は、この限りでない。 (1)相手方の法定代理人 (2)意思能力を回復し、又は行為能力者となった相手方 | 旧民法第98条の2(意思表示の受領能力) 意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に未成年者又は成年被後見人であったときは、その意思表示をもってその相手方に対抗することができない。ただし、その法定代理人がその意思表示を知った後は、この限りでない。 (新設) (新設) |
本条は、平成29年改正民法(2020年4月1日施行)により、以上のように改正されました。
改正情報
旧民法第98条の2では、意思表示の受領に関して、保護対象であった相手方(受領者)は、未成年者と成年被後見人に限られていました。
平成29年改正民法により、これらに加えて、「意思能力を有しなかった」者(いわゆる意思無能力者)が追加されました。
また、ただし書きでは、一般的な解釈に従い、例外として表意者が意思表示を対抗できる場合として、相手方(受領者)が意思能力を回復した場合と行為能力者となった場合が追加されました。
契約実務における注意点
本項により、未成年者や成年被後見人に対して意思表示をしても、その意思表示が否定されてしまう可能性があります。
このため、契約実務においては、制限行為能力者に対する意思表示は、制限行為能力者の法定代理人に対しておこなうべきです。
また、被保佐人や被補助人に対する意思表示も、被保佐人や被補助人だけでなく、保佐人や補助人に対してもおこなうべきです。
被保佐人や被補助人は意思表示の受領は制限されていませんが、相手方からの法律行為には、保佐人や補助人の同意が必要となってくる場合が多いからです。
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